巻一 | ||
歌番号 | ||
雑歌/(天皇遊猟内野之時中皇命使間人連老獻歌)反歌/中皇命 | ||
4 | 玉尅春 内乃大野尓 馬數而 朝布麻須等六 其草深野 | たまきはるうちのおほのにうまなめてあさふますらむそのくさふかの |
中皇命徃于紀温泉之時御歌 | ||
10 | 君之齒母 吾代毛所知哉 磐代乃 岡之草根乎 去来結手名 | きみがよもわがよもしるやいはしろのをかのくさねをいざむすびてな |
(右檢山上憶良大夫類聚歌林曰 天皇御製歌[云々]) | ||
天皇詔内大臣藤原朝臣競憐春山萬花之艶秋山千葉之彩時額田王以歌判之歌 | ||
16 | 冬木成 春去来者 不喧有之 鳥毛来鳴奴 不開有之 花毛佐家礼抒 山乎茂 入而毛不取 草深 執手母不見 秋山乃 木葉乎見而者 黄葉乎婆 取而曽思努布 青乎者 置而曽歎久 曽許之恨之 秋山吾者 | ふゆこもり はるさりくれば なかざりし とりもきなきぬ さかざりし はなもさけれど やまをしみ いりてもとらず くさふかみ とりてもみず あきやまの このはをみては もみちをば とりてぞしのふ あをきをば おきてぞなげく そこしうらめし あきやまわれは |
天皇遊猟蒲生野時額田王作歌 | ||
20 | 茜草指 武良前野逝 標野行 野守者不見哉 君之袖布流 | あかねさすむらさきのゆきしめのゆきのもりはみずやきみがそでふる |
(天皇遊猟蒲生野時額田王作歌)皇太子答御歌 [明日香宮御宇天皇謚曰天武天皇] | ||
21 | 紫草能 尓保敝類妹乎 尓苦久有者 人嬬故尓 吾戀目八方 | むらさきのにほへるいもをにくくあらばひとづまゆゑにわれこひめやも |
高市古人感傷近江舊堵作歌 [或書云高市連黒人] | ||
32 | 古人尓和礼有哉樂浪乃故京乎見者悲寸 | いにしへのひとにわれあれやささなみのふるきみやこをみればかなしき |
33 | 樂浪乃國都美神乃浦佐備而荒有京見者悲毛 | ささなみのくにつみかみのうらさびてあれたるみやこみればかなしも |
幸于紀伊国時、川島皇子御作歌 或云、山上憶良作 | ||
34 | 白浪乃浜松之枝乃手向草幾代左右二賀年乃経去良武 一云、年者経尓計武 | しらなみのはままつがえのたむけくさいくよまでにかとしのへぬらむ <一に云ふ、「としはへにけむ」> |
幸于吉野宮之時柿本朝臣人麻呂作歌 反歌 | ||
37 | 雖見飽奴吉野乃河之常滑乃絶事無久復還見牟 | みれどあかぬよしののかはのとこなめのたゆることなくまたかへりみむ |
雑歌/((軽皇子宿于安騎野時柿本朝臣人麻呂作歌)短歌) | ||
48 | 東 野炎 立所見而 反見為者 月西渡 | ひむがしののにかぎろひのたつみえてかへりみすればつきかたぶきぬ |
譽謝女王作歌 | ||
59 | 流經 妻吹風之 寒夜尓 吾勢能君者 獨香宿良武 | ながらふるつまふくかぜのさむきよにわがせのきみはひとりかぬらむ |
二年壬寅太上天皇幸于参河國時歌/舎人娘子従駕作歌 | ||
61 | 大夫之 得物矢手挿 立向 射流圓方波 見尓清潔之 | ますらをのさつやたばさみたちむかひいるまとかたはみるにさやけし |
雑歌/三野連[名闕]入唐時春日蔵首老作歌 | ||
62 | 在根良 對馬乃渡 々中尓 幣取向而 早還許年 | ありねよしつしまのわたりわたなかにぬさとりむけてはやかへりこね |
幸和銅三年庚戌春二月従藤原宮遷于寧樂宮時御輿停長屋原廻望古郷作歌 [一書云 太上天皇御製] | ||
78 | 飛鳥 明日香能里乎 置而伊奈婆 君之當者 不所見香聞安良武 [一云 君之當乎 不見而香毛安良牟] |
とぶとりのあすかのさとをおきていなばきみがあたりはみえずかもあらむ [きみがあたりをみずてかもあらむ] |
和銅五年壬子夏四月遣長田王于伊勢齊宮時山邊御井作歌 | ||
82 | 浦佐夫流 情佐麻祢之 久堅乃 天之四具礼能 流相見者 | うらさぶるこころさまねしひさかたのあめのしぐれのながらふみれば |
右二首今案不似御井所作 若疑當時誦之古歌歟 | ||
巻二 | ||
歌番号 | ||
古事記曰 軽太子奸軽太郎女 故其太子流於伊豫湯也 此時衣通王 不堪戀<慕>而追徃時歌曰 | ||
90 | 君之行 氣長久成奴 山多豆乃 迎乎将徃 待尓者不待 | きみがゆきけながくなりぬやまたづのむかへをゆかむまつにはまたじ |
右一首歌古事記与類聚<歌林>所説不同歌主亦異焉 因檢日本紀曰難波高津宮御宇大鷦鷯天皇廿二年春正月天皇語皇后納八田皇女将為妃 時皇后不聴 爰天皇歌以乞於皇后云々 卅年秋九月乙卯朔乙丑皇后遊行紀伊國到熊野岬 取其處之御綱葉而還 於是天皇伺皇后不在而娶八田皇女納於宮中時皇后 到難波濟 聞天皇合八田皇女大恨之云々 亦曰 遠飛鳥宮御宇雄朝嬬稚子宿祢天皇廿三年春<三>月甲午朔庚子 木梨軽皇子為太子 容姿佳麗見者自感 同母妹軽太娘皇女亦艶妙也云々 遂竊通乃悒懐少息 廿四年夏六月御羮汁凝以作氷 天皇異之卜其所由 卜者曰 有内乱 盖親々相奸乎云々 仍移太娘皇女於伊<豫>者 今案二代二時不見此歌也 | ||
相聞/(久米禅師娉石川郎女時歌五首) | ||
100 | 東人之 荷向篋乃 荷之緒尓毛 妹情尓 乗尓家留香問 [禅師] | あづまひとののさきのはこのにのをにもいもはこころにのりにけるかも |
大伴宿祢娉巨勢郎女時歌一首 [大伴宿祢諱曰安麻呂也難波朝右大臣大紫大伴長徳卿之第六子平城朝任大納言兼大将軍薨也] | ||
101 | 玉葛 實不成樹尓波 千磐破 神曽著常云 不成樹別尓 | たまかづらみならぬきにはちはやぶるかみぞつくといふならぬきごとに |
巨勢郎女報贈歌一首 [即近江朝大納言巨勢人卿之女也] | ||
102 | 玉葛 花耳開而 不成有者 誰戀尓有目 吾孤悲念乎 | たまかづらはなのみさきてならざるはたがこひにあらめあはこひおもふを |
天皇賜藤原夫人御歌一首 | ||
103 | 吾里尓 大雪落有 大原乃 古尓之郷尓 落巻者後 | わがさとにおほゆきふれりおほはらのふりにしさとにふらまくはのち |
藤原夫人奉和歌一首 | ||
104 | 吾岡之 於可美尓言而 令落 雪之摧之 彼所尓塵家武 | わがをかのおかみにいひてふらしめしゆきのくだけしそこにちりけむ |
大津皇子竊下於伊勢神宮上来時大伯皇女御作歌二首 | ||
105 | 吾勢コ乎 倭邊遺登 佐夜深而 鷄鳴露尓 吾立所霑之 | わがせこをやまとへやるとさよふけてあかときつゆにわれたちぬれし |
106 | 二人行杼 去過難寸 秋山乎 如何君之 獨越武 | ふたりゆけどゆきすぎかたきあきやまをいかにかきみがひとりこゆらむ |
大津皇子贈石川郎女御歌一首 | ||
107 | 足日木乃山之四付二妹待跡吾立所沾山之四附二 | あしひきのやまのしずくにいもまつとわれたちぬれぬやまのしずくに |
石川郎女奉和歌一首 | ||
108 | 吾乎待跡君之沾計武足日木能山之四附二成益物乎 | あをまつときみがぬれけむあしひきのやまのしずくにならましものを |
但馬皇女在高市皇子宮時思穂積皇子御作歌一首 | ||
114 | 秋田之 穂向乃所縁 異所縁 君尓因奈名 事痛有登母 | あきのたのほむきのよれるかたよりにきみによりななこちたくありとも |
勅穂積皇子遣近江志賀山寺時但馬皇女御作歌一首 | ||
115 | 遺居而 戀管不有者 追及武 道之阿廻尓 標結吾勢 | おくれゐてこひつつあらずはおひしかむみちのくまみにしめゆへわがせ |
但馬皇女在高市皇子宮時竊接穂積皇子事既形而御作歌一首 | ||
116 | 人事乎 繁美許知痛美 己世尓 未渡 朝川渡 | ひとごとをしげみこちたみおのがよにいまだわたらぬあさかはわたる |
舎人皇子御歌一首 | ||
117 | 大夫哉片恋将為跡嘆友鬼乃益ト雄尚恋二家里 | ますらをやかたこひせむとなげけどもしこのますらをなほこひにけり |
舎人娘子奉和歌一首 | ||
118 | 嘆管大夫之恋礼許曾吾結髪乃漬而奴礼計礼 | なげきつつますらをのこのこふれこそあがゆふかみのひちてぬれけれ |
石川女郎贈大伴宿祢田主歌一首 [即佐保大納言大伴卿之第二子 母曰巨勢朝臣也] | ||
126 | 遊士跡 吾者聞流乎 屋戸不借 吾乎還利 於曽能風流士 | みやびをとわれはきけるをやどかさずわれをかへせりおそのみやびを |
大伴田主字曰仲郎 容姿佳艶風流秀絶 見人聞者靡不歎息也 時有石川女郎 自成雙栖之感恒悲獨守之難 意欲寄書未逢良信 爰作方便而似賎嫗 己提堝子而到寝側 哽音J足叩戸諮曰 東隣貧女将取火来矣 於是仲郎 暗裏非識冒隠之形 慮外不堪拘接之計 任念取火就跡歸去也 明後女郎 既恥自媒之可愧 復恨心契之弗果 因作斯歌以贈謔戯焉 | ||
大伴宿祢田主報贈歌一首 | ||
127 | 遊士尓 吾者有家里 屋戸不借 令還吾曽 風流士者有 | みやびをにわれはありけりやどかさずかへししわれぞみやびをにはある |
同石川女郎更贈大伴田主中郎歌一首 | ||
128 | 吾聞之 耳尓好似 葦若末乃 足痛吾勢 勤多扶倍思 | わがききしみみによくにるあしのうれのあしひくわがせつとめたぶべし |
右依中郎足疾贈此歌問訊也 | ||
相聞/長皇子与皇弟御歌一首 | ||
130 | 丹生乃河 瀬者不渡而 由久遊久登 戀痛吾弟 乞通来祢 | にふのかはせはわたらずてゆくゆくとこひたしわがせいでかよひこね |
有間皇子自傷結松枝歌二首 | ||
141 | 磐白乃浜松之枝乎引結真幸有者亦還見武 | いはしろのはままつがえをひきむすびまさきくあらばまたかへりみむ |
142 | 家有者笥尓盛飯乎草枕旅尓之有者椎之葉尓盛 | いへにあればけにもるいひをくさまくらたびにしあればしひのはにもる |
長忌寸意吉結松哀咽歌二首 | ||
143 | 磐代乃崖之松枝将結人者反而復将見鴨 | いはしろのきしのまつがえむすびけむひとはかへりてまたみけむかも |
144 | 磐代之野中尓立有結松情毛不解古所念 未詳 | いはしろののなかにたてるむすびまつこころもとけずいにしへおもほゆ |
山上憶良追和歌一首 | ||
145 | 鳥翔成有我欲比管見良目杼母人社不知松者知良武 | つばさなすありがよひつつみらめどもひとこそしらねまつはしるらむ |
右件歌等雖不挽柩之時所作<准>擬歌意 故以載于挽歌類焉 | 右の件(くだり)の歌どもは、棺を挽く時に作る所にあらずといへども、歌の意(こころ)を准擬す。故以に挽歌の類に載せたり。 | |
大宝元年辛丑、幸于紀伊国時、見結松歌一首 柿本朝臣人麻呂歌集中出也 | ||
146 | 後将見跡君之結有磐代乃子松之宇礼乎又将見香聞 | のちみむときみがむすべるいはしろのこまつがうれをまたみけむかも |
十市皇女薨時、高市皇子尊御作歌三首 | ||
156 | 三諸之神之神須疑巳具耳矣自得見監乍共(訓定説なし)不寝夜叙多 | みもろのみわのかむすぎ巳具耳矣自得見監乍共いねぬよぞおおき |
157 | 神山之山辺真蘇木綿短木綿如此耳故尓長等思伎 | みわやまのやまへまそゆふみじかゆふかくのみゆえにながくとおもひき |
158 | 山振之立儀足山清水酌尓雖行道之白鳴 | やまぶきのたちよそいたるやましみずくみにゆかめどみちのしらなく |
一書曰天皇崩之時太上天皇御製歌二首 | ||
160 | 燃火物 取而L而 福路庭 入澄不言八面 智男雲 | もゆるひもとりてつつみてふくろにはいるといはずやも 智男雲 |
大津皇子薨之後、大来皇女従伊勢斎宮上京之時、御作歌二首 | ||
163 | 神風之伊勢能国尓母有益乎奈何可来計武君毛不有尓 | かむかぜのいせのくににもあらましをなにしかきけむきみもあらなくに |
164 | 欲見吾為君毛不有尓奈何可来計武馬疲尓 | みまくほりあがするきみもあらなくになにしかきけむうまつかるるに |
移葬大津皇子屍於葛城二上山之時、大来皇女哀傷御作歌二首 | ||
165 | 宇都曾見之人尓有吾哉従明日者二上山乎弟世登吾将見 | うつそみのひとなるあれやあすよりはふたかみやまをいろせとあがみむ |
166 | 礒之於尓生流馬酔木乎手折目杼令視倍吉君之在常不言尓 | いそのうへにおふるあしびをたをらめどみすべききみがありといはなくに |
挽歌/(皇子尊宮舎人等慟傷作歌廿三首) | ||
182 | 鳥グラ立 飼之鴈乃兒 栖立去者 檀岡尓 飛反来年 | とぐらたてかひしかりのこすだちなばまゆみのをかにとびかへりこね |
(右日本紀曰 三年己丑夏四月癸未朔乙未薨) | ||
但馬皇女薨後穂積皇子冬日雪落遥望御墓悲傷流涕御作歌一首 | ||
203 | 零雪者 安播尓勿落 吉隠之 猪養乃岡之 寒有巻尓 | ふるゆきはあはになふりそよなばりのゐかひのをかのさむからまくに |
(*鴨山五首) 柿本朝臣人麻呂在石見国臨死時、自傷作歌一首 | ||
223 | 鴨山之磐根之巻有吾乎鴨不知等妹之待乍将有 | かもやまのいはねしまけるあれをかもしらにといもがまちつつあるらむ |
柿本朝臣人麻呂死時、妻依羅娘子作歌二首 | ||
224 | 且今々々々吾待君者石水之貝尓交而有登不言八方 | けふけふとあがまつきみはいしかわのかひにまじりてありといはずやも |
225 | 直相者相不勝石川尓雲立渡礼見乍将偲 | ただにあはばあひかつましじいしかわにくもたちわたれみつつしのはむ |
丹比真人柿本人麻呂之意、報歌一首 | ||
226 | 荒波尓縁来玉乎枕尓置吾此間有跡誰将告 | あらなみによりくるたまをまくらにおきあれここにありとたれかつげけむ |
或本歌日 | ||
227 | 天離夷之荒野尓君乎置而念乍有者生刀毛無 | あまざかるひなのあらのにきみをおきておもひつつあればいけるともなし |
(霊龜元年歳次乙卯秋九月志貴親王<薨>時作歌一首[并短歌])短歌二首 | ||
231 | 高圓之 野邊乃秋芽子 徒 開香将散 見人無尓 | たかまとののへのあきはぎいたづらにさきかちるらむみるひとなしに |
232 | 御笠山 野邊徃道者 己伎太雲 繁荒有可 久尓有勿國 | みかさやまのへゆくみちはこきだくもしげくあれたるかひさにあらなくに |
右歌笠朝臣金村歌集出 | ||
(霊龜元年歳次乙卯秋九月志貴親王<薨>時作歌一首[并短歌])或本歌曰 | ||
233 | 高圓之 野邊乃秋芽子 勿散祢 君之形見尓 見管思奴播武 | たかまとののへのあきはぎなちりそねきみがかたみにみつつしぬはむ |
234 | 三笠山 野邊従遊久道 己伎<太>久母 荒尓計類鴨 久尓有名國 | みかさやまのへゆゆくみちこきだくもあれにけるかもひさにあらなくに |
巻三 | ||
歌番号 | ||
天皇賜志斐嫗御歌一首 | ||
237 | 不聴跡雖云強流志斐能我強語比者不聞而朕恋尓家里 | いなといへどしふるしひのがしひかたりこのころきかずてあれおもひにけり |
志斐嫗奉和歌一首 嫗名未詳 | ||
238 | 不聴雖謂話礼話礼常詔許曾志斐伊波奏強話登言 | いなといへどかたれかたれとのらせこそしひいはもうせしひかたりといふ |
雑歌/弓削皇子遊吉野時御歌一首 | ||
243 |
瀧上之 三船乃山尓 居雲乃 常将有等 和我不念久尓 | たきのうへのみふねのやまにゐるくものつねにあらむとわがおもはなくに |
柿本朝臣人麻呂歌一首 | ||
268 |
淡海乃海 夕浪千鳥 汝鳴者 情毛思努尓 古所念 | あふみのうみゆふなみちどりながなけばこころもしのにいにしへおもほゆ |
志貴皇子御歌一首 | ||
269 |
牟佐々婢波 木末求跡 足日木乃 山能佐都雄尓 相尓来鴨 | むささびはこぬれもとむとあしひきのやまのさつをにあひにけるかも |
阿倍女郎屋部坂歌一首 | ||
271 |
人不見者 我袖用手 将隠乎 所焼乍可将有 不服而来来 | ひとみずはわがそでもちてかくさむをやけつつかあらむきずてきにけり |
雑歌/(高市連黒人覊旅歌八首) | ||
280 |
速来而母 見手益物乎 山背 高槻村 散去奚留鴨 | はやきてもみてましものをやましろのたかのつきむらちりにけるかも |
小田事勢能山歌一首 | ||
294 |
真木葉乃 之奈布勢能山 之努波受而 吾超去者 木葉知家武 | まきのはのしなふせのやましのはずてわがこえゆけばこのはしりけむ |
高市連黒人近江舊都歌一首 | ||
308 |
如是故尓不見跡云物乎樂浪乃舊都乎令見乍本名 | かくゆゑにみじといふものをささなみのふるきみやこをみせつつもとな |
高博通法師徃紀伊國見三穂石室作歌三首 | ||
310 |
皮為酢寸久米能若子我伊座家留[一云 家牟]三穂乃石室者雖見不飽鴨[一云安礼尓家留可毛] | はだすすきくめのわくごがいましける[けむ]みほのいはやはみれどあかぬかも[あれにけるかも] |
311 |
常磐成 石室者今毛 安里家礼騰 住家類人曽 常無里家留 | ときはなすいはやはいまもありけれどすみけるひとぞつねなかりける |
312 |
石室戸尓 立在松樹 汝乎見者 昔人乎 相見如之 | いはやとにたてるまつのきなをみればむかしのひとをあひみるごとし |
式部卿藤原宇合卿被使改造難波堵之時作歌一首 | ||
315 |
昔者社難波居中跡所言奚米今者京引都備仁鷄里 | むかしこそなにはゐなかといはれけめいまはみやこひきみやこびに |
雑歌/(詠不盡山歌一首[并短歌])反歌 | ||
323 |
不盡嶺尓 零置雪者 六月 十五日消者 其夜布里家利 | ふじのねにふりおくゆきはみなづきのもちにけぬればそのよふりけり |
(右一首高橋連蟲麻呂之歌中出焉 以類載此) | ||
大宰少貳小野老朝臣歌一首 | ||
331 |
青丹吉 寧樂乃京師者 咲花乃 薫如 今盛有 | あをによしならのみやこはさくはなのにほふがごとくいまさかりなり |
防人司佑大伴四綱歌二首 | ||
332 |
安見知之 吾王乃 敷座在 國中者 京師所念 | やすみししわがおほきみのしきませるくにのうちにはみやこしおもほゆ |
333 |
藤浪之 花者盛尓 成来 平城京乎 御念八君 | ふぢなみのはなはさかりになりにけりならのみやこをおもほすやきみ |
帥大伴卿歌五首 | ||
334 |
吾盛 復将變八方 殆 寧樂京乎 不見歟将成 | わがさかりまたをちめやもほとほとにならのみやこをみずかなりなむ |
335 |
吾命毛 常有奴可 昔見之 象<小>河乎 行見為 | わがいのちもつねにあらぬかむかしみしきさのをがはをゆきてみむため |
336 |
淺茅原 曲曲二 物念者 故郷之 所念可聞 | あさぢはらつばらつばらにものもへばふりにしさとしおもほゆるかも |
337 |
萱草 吾紐二付 香具山乃 故去之里乎 <忘>之為 | わすれくさわがひもにつくかぐやまのふりにしさとをわすれむがため |
338 |
吾行者 久者不有 夢乃和太 湍者不成而 淵有<乞> | わがゆきはひさにはあらじいめのわだせにはならずてふちにありこそ |
沙弥満誓詠綿歌一首 [造筑紫觀音寺別當俗姓笠朝臣麻呂也] | ||
339 |
白縫 筑紫乃綿者 身箸而 未者<伎>袮杼 暖所見 | しらぬひつくしのわたはみにつけていまだはきねどあたたけくみゆ |
山上憶良臣罷宴歌一首 | ||
340 |
憶良等者 今者将罷 子将哭 其彼母毛 吾乎将待曽 | おくららはいまはまからむこなくらむそれそのははもわをまつらむぞ |
大宰帥大伴卿讃酒歌十三首 | ||
353 |
黙然居而 賢良為者 飲酒而 酔泣為尓 尚不如来 | もだをりてさかしらするはさけのみてゑひなきするになほしかずけり |
沙弥満誓歌一首 | ||
354 |
世間乎 何物尓将譬 旦開 榜去師船之 跡無如 | よのなかをなににたとへむあさびらきこぎいにしふねのあとなきごとし |
(山部宿祢赤人歌六首) | ||
365 |
美沙居 石轉尓生 名乗藻乃 名者告志弖余 親者知友 | みさごゐるいそみにおふるなのりそのなはのらしてよおやはしるとも |
366 |
美沙居 荒礒尓生 名乗藻乃 吉名者告世 父母者知友 | みさごゐるありそにおふるなのりそのよしなはのらせおやはしるとも |
安倍廣庭卿歌一首 | ||
373 |
雨不零 殿雲流夜之 潤濕跡 戀乍居寸 君待香光 | あめふらずとのぐもるよのぬれひつとこひつつをりききみまちがてり |
出雲守門部王思京歌一首 [後賜大原真人氏也] | ||
374 |
飫海乃 河原之乳鳥 汝鳴者 吾佐保河乃 所念國 | おうのうみのかはらのちどりながなけばわがさほかはのおもほゆらくに |
雑歌/山部宿祢赤人登春日野作歌一首[并短歌] | ||
375 |
春日乎 春日山乃 高座之 御笠乃山尓 朝不離 雲居多奈引 容鳥能 間無數鳴 雲居奈須 心射左欲比 其鳥乃 片戀耳二 晝者毛 日之盡 夜者毛 夜之盡 立而居而 念曽吾為流 不相兒故荷 | はるひを かすがのやまの たかくらの みかさのやまに あささらず くもゐたなびき かほどりの まなくしばなく くもゐなす こころいさよひ そのとりの かたこひのみに ひるはも ひのことごと よるはも よのことごと たちてゐて おもひぞわがする あはぬこゆゑに |
(雑歌/(山部宿祢赤人登春日野作歌一首[并短歌])反歌 | ||
376 |
高按之 三笠乃山尓 鳴鳥之 止者継流 戀哭為鴨 | たかくらのみかさのやまになくとりのやめばつがるるこひもするかも |
石上乙麻呂朝臣歌一首 | ||
377 |
雨零者 将盖跡念有 笠乃山 人尓莫令盖 霑者漬跡裳 | あめふらばきむとおもへるかさのやまひとになきせそぬれはひつとも |
湯原王芳野作歌一首 | ||
378 |
吉野尓有 夏實之河乃 川余杼尓 鴨曽鳴成 山影尓之弖 | よしのなるなつみのかはのかはよどにかもぞなくなるやまかげにして |
譬喩歌 / 紀皇女御歌一首 | ||
393 |
軽池之 □廻徃轉留 鴨尚尓 玉藻乃於丹 獨宿名久二 □は「氵」に「内」 | かるのいけのうらみゆきみるかもすらにたまものうへにひとりねなくに |
笠女郎贈大伴宿祢家持歌三首 | ||
398 |
託馬野尓 生流紫 衣染 未服而 色尓出来 | たくまのにおふるむらさききぬにしめいまだきずしていろにいでにけり |
399 |
陸奥之 真野乃草原 雖遠 面影為而 所見云物乎 | みちのくのまののかやはらとほけどもおもかげにしてみゆといふものを |
400 |
奥山之 磐本菅乎 根深目手 結之情 忘不得裳 | おくやまのいはもとすげをねふかめてむすびしこころわすれかねつも |
譬喩歌/大伴宿祢駿河麻呂娉同坂上家之二嬢歌一首 | ||
410 |
春霞 春日里之 殖子水葱 苗有跡云師 柄者指尓家牟 | はるかすみかすがのさとのうゑこなぎなへなりといひしえはさしにけむ |
譬喩歌/大伴宿祢家持 | ||
411 | 石竹之 其花尓毛我 朝旦 手取持而 不戀日将無 | なでしこがそのはなにもがあさなさなてにとりもちてこひぬひなけむ |
大網公人主宴吟歌一首 | ||
416 | 須麻乃海人之塩焼衣乃藤服間遠之有者未著穢 | すまのあまのしほやききぬのふぢころもまとほにしあればいまだきなれず |
大津皇子被死之時、磐余池陂流涕御作歌一首 | ||
419 | 百伝磐余池尓鳴鴨乎今日耳見哉雲隠去牟 | ももづたふいわれのいけになくかもをけふのみみてやくもがくりなむ |
挽歌/溺死出雲娘子火葬吉野時柿本朝臣人麻呂作歌二首 | ||
432 |
山際従 出雲兒等者 霧有哉 吉野山 嶺霏□ (□=雨冠に微) | やまのまゆいづものこらはきりなれやよしののやまのみねにたなびく |
神亀五年戊辰、大宰帥大伴卿思恋故人歌三首 | ||
441 | 愛人之纒而師敷細之吾手枕乎纒人将有哉 | うつくしきひとのまきてししきたへのあがたまくらをまくひとあらめや |
右一首、別去而経数旬作歌 | ||
442 | 応還時者成来京師尓而誰手本乎可吾将枕 | かへるべくときはなりけりみやこにてたがたもとをかあがまくらかむ |
443 | 在京荒有家尓一宿者益旅而可辛苦 | みやこなるあれたるいへにひとりねばたびにまさりてくるしかるべし |
右二首、臨近向京之時作歌 | ||
還入故郷家即作歌三首 | ||
454 | 人毛奈吉空家者草枕旅尓益而辛苦有家里 | ひともなきむなしきいへはくさまくらたびにまさりてくるしかりけり |
455 | 与妹為而二作之吾山斎者木高繁成家留鴨 | いもとしてふたりつくりしわがしまはこだかくしげくなりにけるかも |
456 | 吾妹子之殖之梅樹毎見情咽都追涕之流 | わぎもこがうえしうめのきみるごとにこころむせつつなみたしながる |
十一年己卯夏六月大伴宿祢家持悲傷亡妾作歌一首 | ||
465 | 従今者 秋風寒 将吹焉 如何獨 長夜乎将宿 | いまよりはあきかぜさむくふきなむをいかにかひとりながきよをねむ |
悲緒未息更作歌五首 | ||
477 | 昔許曽 外尓毛見之加 吾妹子之 奥槨常念者 波之吉佐寳山 | むかしこそよそにもみしかわぎもこがおくつきとおもへばはしきさほやま |
挽歌/((十六年甲申春二月安積皇子薨之時内舎人大伴宿祢家持作歌六首)反歌) | ||
480 | 足桧木乃 山左倍光 咲花乃 散去如寸 吾王香聞 | あしひきのやまさへひかりはなのちりぬるごときわがおほきみかも |
右三首二月三日作歌 | ||
巻四 | ||
歌番号 | ||
相聞/(吹茨刀自歌二首) | ||
494 | 河上乃 伊都藻之花乃 何時々々 来益我背子 時自異目八方 | かはのへのいつものはなのいつもいつもきませわがせこときじけめやも |
柿本朝臣人麻呂歌四首 | ||
500 | 古尓 有兼人毛 如吾歟 妹尓戀乍 宿不勝家牟 | いにしへにありけむひともあがごとかいもにこひつついねかてずけむ |
501 | 今耳之 行事庭不有 古 人曽益而 哭左倍鳴四 | いまのみのわざにはあらずいにしへのひとぞまさりてねにさへなきし |
柿本朝臣人麻呂歌三首 | ||
504 | 未通女等之 袖振山乃 水垣之 久時従 憶寸吾者 | をとめらがそでふるやまのみづかきのひさしきときゆおもひきわれは |
安倍女郎歌二首 | ||
508 | 今更 何乎可将念 打靡 情者君尓 縁尓之物乎 | いまさらになにをかおもはむうちなびきこころはきみによりにしものを |
相聞/駿河采女歌一首 | ||
510 | 細乃 枕従久々流 涙二曽 浮宿乎思家類 戀乃繁尓 | しきたへのまくらゆくくるなみたにぞうきねをしけるこひのしげきに |
大納言兼大将軍大伴卿歌一首 | ||
520 | 神樹尓毛 手者觸云乎 打細丹 人妻跡云者 不觸物可聞 | かむきにもてはふるといふをうつたへにひとづまといへばふれぬものかも |
石川郎女歌一首 [即佐保大伴大家也] | ||
521 | 春日野之 山邊道乎 与曽理無 通之君我 不所見許呂香聞 | かすがののやまへのみちをよそりなくかよひしきみがみえぬころかも |
大伴女郎歌一首 [今城王之母也今城王後賜大原真人氏也] | ||
522 | 雨障 常為公者 久堅乃 昨夜雨尓 将懲鴨 | あまつつみつねするきみはひさかたのきぞのよのあめにこりにけむかも |
(大伴女郎歌一首 [今城王之母也今城王後賜大原真人氏也])後人追同歌一首 | ||
523 | 久堅乃 雨毛落<粳> 雨乍見 於君副而 此日令晩 | ひさかたのあめもふらぬかあまつつみきみにたぐひてこのひくらさむ |
大宰大監大伴宿祢百代戀歌四首 | ||
563 | 孤悲死牟後者何為牟生日之為社妹乎欲見為礼 | こひしなむのちはなにせむいけるひのためこそいもをみまくほりすれ |
565 | 無暇 人之眉根乎 徒 令掻乍 不相妹可聞 | いとまなくひとのまよねをいたづらにかかしめつつもあはぬいもかも |
大宰帥大伴卿被任大納言臨入京之時府官人等餞卿筑前國蘆城驛家歌四首) | ||
574 | 月夜吉 河音清之 率此間 行毛不去毛 遊而将歸 | つくよよしかはとさやけしいざここにゆくもゆかぬもあそびてゆかむ |
右一首防人佑大伴四綱 | ||
(大宰帥大伴卿上京之後沙弥満誓贈卿歌二首) | ||
576 | 野干玉之 黒髪變 白髪手裳 痛戀庭 相時有来 | ぬばたまのくろかみかはりしらけてもいたきこひにはあふときありけり |
581 | 天地与 共久 住波牟等 念而有師 家之庭羽裳 | あめつちとともにひさしくすまはむとおもひてありしいへのにははも |
相聞/(大伴坂上家之大娘報贈大伴宿祢家持歌四首) | ||
587 | 春日山 朝立雲之 不居日無 見巻之欲寸 君毛有鴨 | かすがやまあさたつくものゐぬひなくみまくのほしききみにもあるかも |
笠女郎贈大伴宿祢家持歌廿四首 | ||
590 | 吾形見 々管之努波世 荒珠 年之緒長 吾毛将思 | わがかたみみつつしのはせあらたまのとしのをながくわれもしのはむ |
591 | 白鳥能 飛羽山松之 待乍曽 吾戀度 此月比乎 | しらとりのとばやままつのまちつつそあがこひわたるこのつきごろを |
592 | 衣手乎 打廻乃里尓 有吾乎 不知曽人者 待跡不来家留 | ころもでをうちみのさとにあるわれをしらにそひとはまてどこずける |
593 | 荒玉 年之經去者 今師波登 勤与吾背子 吾名告為莫 | あらたまのとしのへぬればいましはとゆめよわがせこわがなのらすな |
594 | 吾念乎 人尓令知哉 玉匣 開阿氣津跡 夢西所見 | わがおもひをひとにしるれかたまくしげひらきあけつといめにしみゆる |
595 | 闇夜尓 鳴奈流鶴之 外耳 聞乍可将有 相跡羽奈之尓 | やみのよになくなるたづのよそのみにききつつかあらむあふとはなしに |
596 | 君尓戀 痛毛為便無見 楢山之 小松之下尓 立嘆鴨 | きみにこひいたもすべなみならやまのこまつがしたにたちなげくかも |
597 | 吾屋戸之 暮陰草乃 白露之 消蟹本名 所念鴨 | わがやどのゆふかげくさのしらつゆのけぬがにもとなおもほゆるかも |
598 | 吾命之 将全<牟>限 忘目八 弥日異者 念益十方 | わがいのちのまたけむかぎりわすれめやいやひにけにはおもひますとも |
599 | 八百日徃 濱之沙毛 吾戀二 豈不益歟 奥嶋守 | やほかゆくはまのまなごもあがこひにあにまさらじかおきつしまもり |
600 | 宇都蝉之 人目乎繁見 石走 間近君尓 戀度可聞 | うつせみのひとめをしげみいしはしのまちかききみにこひわたるかも |
601 | 戀尓毛曽 人者死為 水無瀬河 下従吾痩 月日異 | こひにもぞひとはしにするみなせがはしたゆわれやすつきにひにけに |
602 | 朝霧之 欝相見之 人故尓 命可死 戀渡鴨 | あさぎりのおほにあひみしひとゆゑにいのちしぬべくこひわたるかも |
603 | 伊勢海之 礒毛動尓 因流波 恐人尓 戀渡鴨 | いせのうみのいそもとどろによするなみかしこきひとにこひわたるかも |
604 | 従情毛 吾者不念寸 山河毛 隔莫國 如是戀常羽 | こころゆもわはおもはずきやまかはもへだたらなくにかくこひむとは |
605 | 暮去者 物念益 見之人乃 言問為形 面景尓而 | ゆふさればものもひまさるみしひとのこととふすがたおもかげにして |
606 | 念西 死為物尓 有麻世波 千遍曽吾者 死變益 | おもひにししにするものにあらませばちたびぞわれはしにかへらまし |
607 | 劔大刀 身尓取副常 夢見津 何如之恠曽毛 君尓相為 | つるぎたちみにとりそふといめにみつなにのさがぞもきみにあはむため |
608 | 天地之 神理 無者社 吾念君尓 不相死為目 | あめつちのかみのことわりなくはこそあがおもふきみにあはずしにせめ |
609 | 吾毛念 人毛莫忘 多奈和丹 浦吹風之 止時無有 | われもおもふひともなわすれおほなわにうらふくかぜのやむときもなし |
610 | 皆人乎 宿与殿金者 打礼杼 君乎之念者 寐不勝鴨 | みなひとをねよとのかねはうつなれどきみをしおもへばいねかてぬかも |
611 | 不相念 人乎思者 大寺之 餓鬼之後尓 額衝如 | あひおもはぬひとをおもふはおほてらのがきのしりへにぬかつくごとし |
612 | 従情毛 我者不念寸 又更 吾故郷尓 将還来者 | こころゆもわはおもはずきまたさらにわがふるさとにかへりこむとは |
613 | 近有者 雖不見在乎 弥遠 君之伊座者 有不勝自 | ちかくあればみねどもあるをいやとほくきみがいまさばありかつましじ |
右二首相別後更来贈 | ||
(笠女郎贈大伴宿祢家持歌廿四首)大伴宿祢家持和<歌>二首 | ||
614 | 今更 妹尓将相八跡 念可聞 幾許吾胸 欝悒将有 | いまさらにいもにあはめやとおもへかもここだあがむねいぶせくあるらむ |
615 | 中々者 黙毛有益乎 何為跡香 相見始兼 不遂尓 | なかなかにもだもあらましをなにすとかあひみそめけむとげざらまくに |
相聞/(山口女王贈大伴宿祢家持歌五首) | ||
617 | 不相念 人乎也本名 白細之 袖漬左右二 哭耳四泣裳 | あひおもはぬひとをやもとなしろたへのそでひつまでにねのみしなくも |
(湯原王贈娘子歌二首 [志貴皇子之子也])娘子報贈歌二首 | ||
636 | 幾許 思異目鴨 敷細之 枕片去 夢所見来之 | いかばかりおもひけめかもしきたへのまくらかたさるいめにみえこし |
(大伴宿祢駿河麻呂歌三首) | ||
657 | 相見者 月毛不經尓 戀云者 乎曽呂登吾乎 於毛保寒毳 | あひみてはつきもへなくにこふといはばをそろとわれをおもほさむかも |
中臣女郎贈大伴宿祢家持歌五首 | ||
678 | 娘子部四 咲澤二生流 花勝見 都毛不知 戀裳摺可聞 | をみなへしさきさはにおふるはなかつみかつてもしらぬこひもするかも |
679 | 海底 奥乎深目手 吾念有 君二波将相 年者經十方 | わたのそこおくをふかめてあがおもへるきみにはあはむとしはへぬとも |
680 | 春日山 朝居雲乃 欝 不知人尓毛 戀物香聞 | かすがやまあさゐるくものおほほしくしらぬひとにもこふるものかも |
681 | 直相而 見而者耳社 霊剋 命向 吾戀止眼 | ただにあひてみてばのみこそたまきはるいのちにむかふあがこひやまめ |
682 | 不欲常云者 将強哉吾背 菅根之 念乱而 戀管母将有 | いなといはばしひめやわがせすがのねのおもひみだれてこひつつもあらむ |
大伴宿祢家持贈娘子歌二首 | ||
694 | 百礒城之 大宮人者 雖多有 情尓乗而 所念妹 | ももしきのおほみやひとはおほかれどこころにのりておもほゆるいも |
695 | 得羽重無 妹二毛有鴨 如此許 人情乎 令盡念者 | うはへなきいもにもあるかもかくばかりひとのこころをつくさくおもへば |
広河女王歌二首 穂積皇子之孫女、上道王之女 | ||
697 | 恋草乎力車二七車積而恋良苦吾心柄 | こひぐさをちからぐるまにななくるまつみてこふらくわがこころから |
698 | 恋者今葉不有常吾羽念乎何処恋其附見繋有 | こひはいまはあらじとあれはおもへるをいづくのこいそつかみかかれる |
大伴宿祢家持到娘子之門作歌一首 | ||
703 | 如此為而哉 猶八将退 不近 道之間乎 煩参来而 | かくしてやなほやまからむちかからぬみちのあひだをなづみまゐきて |
大伴宿祢家持贈娘子歌七首 | ||
719 | 夜晝 云別不知 吾戀 情盖 夢所見寸八 | よるひるといふわきしらずあがこふるこころはけだしいめにみえきや |
723 | 村肝之情揣而如此許余戀良苦乎不知香安類良武 | むらきものこころくだけてかくばかりあがこふらくをしらずかあるらむ |
大伴坂上郎女従跡見庄賜留宅女子大嬢歌一首[并短歌] | ||
726 | 常呼二跡 吾行莫國 小金門尓 物悲良尓 念有之 吾兒乃刀自緒 野干玉之 夜晝跡不言 念二思 吾身者痩奴 嘆丹師 袖左倍<沾>奴 如是許 本名四戀者 古郷尓 此月期呂毛 有勝益土 | とこよにと あがゆかなくに をかなとに ものかなしらに おもへりし あがこのとじを ぬばたまの よるひるといはず おもふにし あがみはやせぬ なげくにし そでさへぬれぬ かくばかり もとなしこひば ふるさとに このつきごろも ありかつましじ |
727 | 朝髪之 念乱而 如是許 名姉之戀曽 夢尓所見家留 | あさかみのおもひみだれてかくばかりなねがこふれぞいめにみえける |
右歌報賜大嬢進歌也 | ||
同大嬢贈家持歌二首 | ||
740 | 云々 人者雖云 若狭道乃 後瀬山之 後毛将會君 | かにかくにひとはいふともわかさぢののちせのやまののちもあはむきみ |
741 | 世間之 苦物尓 有家良之 戀尓不勝而 可死念者 | よのなかのくるしきものにありけらしこひにあへずてしぬべきおもへば |
又家持和坂上大嬢歌二首 | ||
742 | 後湍山 後毛将相常 念社 可死物乎 至今日毛生有 | のちせやまのちもあはむとおもへこそしぬべきものをけふまでもいけれ |
743 | 事耳乎 後毛相跡 懃 吾乎令憑而 不相可聞 | ことのみをのちもあはむとねもころにわれをたのめてあはざらむかも |
更大伴宿祢家持贈坂上大嬢歌十五首 | ||
744 | 夢之相者 苦有家里 覺而 掻探友 手二毛不所觸者 | いめのあひはくるしかりけりおどろきてかきさぐれどもてにもふれねば |
745 | 一重耳 妹之将結 帶乎尚 三重可結 吾身者成 | ひとへのみいもがむすばむおびをすらみへむすぶべくわがみはなりぬ |
746 | 吾戀者 千引乃石乎 七許 頚二将繋母 神之諸伏 | あがこひはちびきのいはをななばかりくびにかけむもかみのまにまに |
747 | 暮去者 屋戸開設而 吾将待 夢尓相見二 将来云比登乎 | ゆふさらばやどあけまけてわれまたむいめにあひみにこむといふひとを |
748 | 朝夕二 将見時左倍也 吾妹之 雖見如不見 由戀四家武 | あさよひにみむときさへやわぎもこがみともみぬごとなほこひしけむ |
749 | 生有代尓 吾者未見 事絶而 如是A怜 縫流嚢者 | いけるよにわれはいまだみずことたえてかくおもしろくぬへるふくろは |
750 | 吾妹兒之 形見乃服 下著而 直相左右者 吾将脱八方 | わぎもこがかたみのころもしたにきてただにあふまではわれぬかめやも |
751 | 戀死六 其毛同曽 奈何為二 人目他言 辞痛吾将為 | こひしなむそこもおやじぞなにせむにひとめひとごとこちたみあがせむ |
752 | 夢二谷 所見者社有 如此許 不所見有者 戀而死跡香 | いめにだにみえばこそあれかくばかりみえずてあるはこひてしねとか |
753 | 念絶 和備西物尾 中々爾 奈何辛苦 相見始兼 | おもひたえわびにしものをなかなかにいかでくるしくあひみそめけむ |
754 | 相見而者 幾日毛不經乎 幾許久毛 久流比爾久流必 所念鴨 | あひみてはいくかもへぬをここだくもくるひにくるひおもほゆるかも |
755 | 如是許 面影耳 所念者 何如将為 人目繁而 | かくばかりおもかげのみにおもほえばいかにかもせむひとめしげくて |
756 | 相見者 須臾戀者 奈木六香登 雖念弥 戀益来 | あひみてばしましくこひはなぎむかとおもへどいよよこひまさりけり |
757 | 夜之穂杼呂 吾出而来者 吾妹子之 念有四九四 面影二三湯 | よのほどろあがいでてくればわぎもこがおもへりしくしおもかげにみゆ |
758 | 夜之穂杼呂 出都追来良久 遍多數 成者吾胸 截焼如 | よのほどろいでつつくらくたびまねくなればあがむねたちやくごとし |
大伴坂上郎女従竹田庄贈女子大嬢歌二首 | ||
763 | 打渡 竹田之原尓 鳴鶴之 間無時無 吾戀良久波 | うちわたすたけたのはらになくたづのまなくときなしあがこふらくは |
764 | 早河之 湍尓居鳥之 縁乎奈弥 念而有師 吾兒羽裳アハ怜 | はやかはのせにゐるとりのよしをなみおもひてありしあがこはもあはれ |
在久邇京思留寧樂宅坂上大嬢大伴宿祢家持作歌一首 | ||
768 | 一隔山 重成物乎 月夜好見 門尓出立 妹可将待 | ひとへやまへなれるものをつくよよみかどにいでたちいもかまつらむ |
(在久邇京思留寧樂宅坂上大嬢大伴宿祢家持作歌一首)藤原郎女聞之即和歌一首 | ||
769 | 路遠 不来常波知有 物可良尓 然曽将待 君之目乎保利 | みちとほみこじとはしれるものからにしかぞまつらむきみがめをほり |
大伴宿祢家持従久邇京贈坂上大嬢歌五首 | ||
773 | 人眼多見 不相耳曽 情左倍 妹乎忘而 吾念莫國 | ひとめおほみあはなくのみぞこころさへいもをわすれてあがおもはなくに |
774 | 偽毛 似付而曽為流 打布裳 真吾妹兒 吾尓戀目八 | いつはりもにつきてぞするうつしくもまことわぎもこあれにこひめや |
775 | 夢尓谷 将所見常吾者 保杼毛友 不相志思<者> 諾不所見<有>武 | いめにだにみえむとあれはうけへどもあひしおもはねばうべみえざらむ |
776 | 事不問 木尚味狭藍 諸弟等之 練乃村戸二 所詐来 | こととはぬきすらあじさゐもろとらがねりのむらとにあざむかえけり |
777 | 百千遍 戀跡云友 諸弟等之 練乃言羽者 吾波不信 | ももちたびこふといふとももろとらがねりのことばはわれはたのまじ |
相聞/大伴宿祢家持贈紀女郎歌一首 | ||
778 | 鶉鳴 故郷従 念友 何如裳妹尓 相縁毛無寸 | うづらなくふりにしさとゆおもへどもなにぞもいもにあふよしもなき |
相聞/紀女郎報贈家持歌一首 | ||
779 | 事出之者 誰言尓有鹿 小山田之 苗代水乃 中与杼尓四手 | ことでしはたがことにあるかをやまだのなはしろみづのなかよどにして |
大伴宿祢家持贈紀女郎歌五首 | ||
780 | 吾妹子之屋戸乃籬乎見尓往者盖従門将返却可聞 | わぎもこがやどのまがきをみにゆかばけだしかどよりかへしてむかも |
781 | 打妙尓前垣乃酢堅欲見将行常云哉君乎見尓許曾 | うつたへにまがきのすがたみまくほりゆかむといへやきみをみにこそ |
782 | 板葺之黒木乃屋根者山近之明日取而持将参来 | いたぶきのくろぎのやねはやまちかしあすのひとりてもちてまゐこむ |
783 | 黒樹取草毛苅乍仕目利勤和気登将誉十方不有 | くろぎとりかやもかりつつつかへめどいそしきわけとほめむともあらず |
784 | 野干玉能昨夜者令還今夜左倍吾乎還莫路之長手乎 | ぬばたまのきぞはかへしつこよひさへあれをかへすなみちのながてを |
(大伴宿祢家持贈娘子歌三首) | ||
787 | 打乍二波 更毛不得言 夢谷 妹之<手>本乎 纒宿常思見者 | うつつにはさらにもえいはずいめにだにいもがたもとをまきぬとしみば |
大伴宿祢家持報贈藤原朝臣久須麻呂歌三首 | ||
789 | 春之雨者弥布落尓梅花未咲久伊等若美可聞 | はるのあめはいやしきふるにうめのはないまださかなくいとわかみかも |
790 | 如夢所念鴨愛八師君之使乃麻祢久通者 | いめのごとおもほゆるかもはしきやしきみがつかひのまねくかよへば |
791 | 浦若見花咲難寸梅乎殖而人之事重三念曽吾為類 | うらわかみはなさきかたきうめをうゑてひとのことしげみおもひぞわがする |
又家持贈藤原朝臣久須麻呂歌二首 | ||
792 | 情八十一所念可聞春霞軽引時二事之通者 | こころぐくおもほゆるかもはるかすみたなびくときにことのかよへば |
793 | 春風之聲尓四出名者有去而不有今友君之随意 | はるかぜのおとにしいでなばありさりていまならずともきみがまにまに |
藤原朝臣久須麻呂来報歌二首 | ||
794 | 奥山之磐影尓生流菅根乃懃吾毛不相念有哉 | おくやまのいはかげにおふるすがのねのねもころわれもあひおもはざれや |
795 | 春雨乎待常二師有四吾屋戸之若木乃梅毛未含有 | はるさめをまつとにしあらしわがやどのわかきのうめもいまだふふめり |
巻五 | ||
歌番号 | ||
反歌 | ||
802 | 伊毛何美斯阿布知乃波那波知利奴倍斯和何那久那美多伊摩陁飛那久尓 | いもがみしあふちのはなはちりぬべしわがなくなみだいまだひなくに |
梅花宴/(梅花歌卅二首[并序] / 天平二年正月十三日 萃于帥老之宅 申宴會也 于時初春令月 氣淑風和梅披鏡前之粉 蘭薫珮後之香 加以 曙嶺移雲 松掛羅而傾盖 夕岫結霧鳥封□而迷林 庭舞新蝶 空歸故鴈 於是盖天坐地 促膝飛觴 忘言一室之裏 開衿煙霞之外 淡然自放 快然自足 若非翰苑何以□情 詩紀落梅之篇古今夫何異矣 宜賦園梅聊成短詠) | ||
820 | 烏梅能波奈 伊麻佐家留期等 知利須義受 和我覇能曽能尓 阿利己世奴加毛[少貳小野大夫] | うめのはないまさけるごとちりすぎずわがへのそのにありこせぬかも |
825 | 阿乎夜奈義烏梅等能波奈乎遠理可射之能弥弖能々知波 知利奴得母與斯[笠沙弥] | あをやなぎうめとのはなををりかざしのみてののちはちりぬともよし |
826 | 和何則能尓宇米能波奈知流比佐可多能阿米欲里由吉能那何列久流加母 主人 | わがそのにうめのはなちるひさかたのあめよりゆきのながれくるかも 主人 |
827 | 烏梅能波奈 知良久波伊豆久 志可須我尓 許能紀能夜麻尓 由企波布理都々[大監伴氏百代] | うめのはなちらくはいづくしかすがにこのきのやまにゆきはふりつつ |
833 | 烏梅能波奈 佐企弖知理奈波 佐久良婆那 都伎弖佐久倍久 奈利尓弖阿良受也[藥師張氏福子] | うめのはなさきてちりなばさくらばなつぎてさくべくなりにてあらずや |
(憶良誠惶頓首謹啓 / 憶良聞 方岳諸侯 都督刺使 並依典法 巡行部下 察其風俗 意内多端口外難出 謹以三首之鄙歌 欲寫五蔵之欝結 其歌曰) | ||
874 | 毛々可斯母 由加奴麻都良遅 家布由伎弖 阿須波吉奈武遠 奈尓可佐夜礼留 | ももがしもゆかぬまつらぢけふゆきてあすはきなむをなにかさやれる |
天平二年七月十一日 筑前國司山上憶良謹上 | ||
大伴佐提比古郎子、特被朝命、奉使蕃国。艤棹言帰、稍赴蒼波。妾也松浦佐用姫嬪面、嗟此別易、歎彼会難。即登高山之嶺、遥望離去之船、悵然断肝、黯然銷魂。遂脱領巾麾之、傍者莫不流涕。因号此山、曰領巾麾之嶺也。乃作歌曰、 | ||
875 | 得保都必等麻通良佐用比米都麻胡非尓比例布利之用利於返流夜麻能奈 | とほつひとまつらさよひめつまごひにひれふりおへるやまのな |
後人追和 | ||
876 | 夜麻能奈等伊賓都夏等可母佐用比売河許能野麻能閇仁必例遠布利家牟 | やまのなといひつげとかもさよひめがこのやまのへにひれをふりけむ |
最後人追和 | ||
877 | 余呂豆余尓可多利都夏等之許能多気仁比例布利家良之麻通羅佐用嬪面 | よろづよにかたりつげとしこのたけにひれふりけらしまつらさよひめ |
最々後人追和 | ||
878 | 宇奈波良能意吉由久布祢遠可弊礼等加比礼布良斯家武麻都良佐欲比売 | うなはらのおきゆくふねをかへれとかひれふらしけむまつらさよひめ |
879 | 由久布祢遠布利等騰尾加祢伊加婆加利故保斯苦阿利家武麻都良佐欲比売 | ゆくふねをふりとどみかねいかばかりこほしくありけむまつらさよひめ |
〔(老身重病經年辛苦及思兒等歌七首 [長一首短六首]〕反歌 | ||
904 | 周弊母奈久 苦志久阿礼婆 出波之利 伊奈々等思騰 許良尓佐夜利奴 | すべもなくくるしくあればいではしりいななとおもへどこらにさやりぬ |
(天平五年六月丙申朔三日戊戌作) | ||
(「老身重病經年辛苦及思兒等歌七首 [長一首短六首]」反歌) | ||
905 | 富人能 家能子等能 伎留身奈美 久多志須都良牟 キヌ綿良波母 | とみひとのいへのこどものきるみなみくたしすつらむきぬわたらはも |
巻六 | ![]() |
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歌番号 | ||
((雑歌 / 養老七年癸亥夏五月幸于芳野離宮時笠朝臣金村作歌一首[并短歌])反歌二首) | ||
914 | 山高三 白木綿花 落多藝追 瀧之河内者 雖見不飽香聞 | やまたかみしらゆふばなにおちたぎつたきのかふちはみれどあかぬかも |
雑歌/〔(神龜元年甲子冬十月五日幸于紀伊國時山部宿祢赤人作歌一首[并短歌])反歌二首〕 | ||
924 | 若浦尓 塩満来者 滷乎無美 葦邊乎指天 多頭鳴渡 | わかのうらにしほみちくればかたをなみあしへをさしてたづなきわたる |
右年月不記 但称従駕玉津嶋也 因今檢注行幸年月以載之焉 | ||
雑歌/(山部宿祢赤人作歌二首[并短歌])反歌一首 | ||
932 | 足引之 山毛野毛 御猟人 得物矢手挟 散動而有所見 | あしひきのやまにものにもみかりひとさつやたばさみさわきてありみゆ |
右不審先後 但以便故載於此次 | ||
雑歌/[(三年丙寅秋九月十五日幸於播磨國印南野時笠朝臣金村作歌一首[并短歌])反歌二首]) | ||
942 | 徃廻 雖見将飽八 名寸隅乃 船瀬之濱尓 四寸流思良名美 | ゆきめぐりみともあかめやなきすみのふなせのはまにしきるしらなみ |
雑歌/過辛荷嶋時山部宿祢赤人作歌一首[并短歌] | ||
947 | 味澤相 妹目不數見而 敷細乃 枕毛不巻 櫻皮纒 作流舟二 真梶貫 吾榜来者 淡路乃 野嶋毛過 伊奈美嬬 辛荷乃嶋之 嶋際従 吾宅乎見者 青山乃 曽許十方不見 白雲毛 千重尓成来沼 許伎多武流 浦乃盡 徃隠 嶋乃埼々 隈毛不置 憶曽吾来 客乃氣長弥 | あぢさはふ いもがめかれて しきたへの まくらもまかず かにはまき つくれるふねに まかぢぬき わがこぎくれば あはぢの のしまもすぎ いなみつま からにのしまの しまのまゆ わぎへをみれば あをやまの そこともみえず しらくもも ちへになりきぬ こぎたむる うらのことごと ゆきかくる しまのさきざき くまもおかず おもひぞわがくる たびのけながみ |
雑歌/(四年丁卯春正月勅諸王諸臣子等散禁於授刀寮時作歌一首[并短歌])反歌一首 | ||
954 | 梅柳 過良久惜 佐保乃内尓 遊事乎 宮動々尓 | うめやなぎすぐらくをしみさほのうちにあそびしことをみやもとどろに |
右神龜四年正月 數王子及諸臣子等 集於春日野而作打毬之樂 其日忽天陰 雨雷電 此時宮中無侍従及侍衛 勅行刑罰皆散禁於授刀寮而妄不得出道路 于時悒憤即作斯歌 | ||
雑歌/帥大伴卿宿次田温泉聞鶴喧作歌一首 | ||
966 | 湯原尓 鳴蘆多頭者 如吾 妹尓戀哉 時不定鳴 | ゆのはらになくあしたづはあがごとくいもにこふれやときわかずなく |
同坂上郎女向京海路、見浜貝作歌一首 | ||
969 | 吾背子尓戀者苦暇有者拾而将去戀忘貝 | わがせこにこふればくるしいとまあらばひりひてゆかむこひわすれがひ |
冬十二月<大>宰帥大伴卿上京<時>娘子作歌二首 | ||
970 | 凡有者 左毛右毛将為乎 恐跡 振痛袖乎 忍而有香聞 | おほならばかもかもせむをかしこみとふりたきそでをしのびてあるかも |
971 | 倭道者 雲隠有 雖然 余振袖乎 無礼登母布奈 | やまとぢはくもがくりたりしかれどもわがふるそでをなめしともふな |
右大宰帥<大>伴卿兼任大納言向京上道 此日馬駐水城顧望府家 于時送卿府吏之中有遊行女婦 其字曰兒嶋也 於是娘子傷此易別嘆彼難會 拭涕自吟振袖之歌 | ||
大納言大伴卿和歌二首 | ||
972 | 日本道乃 吉備乃兒嶋乎 過而行者 筑紫乃子嶋 所念香聞 | やまとぢのきびのこしまをすぎてゆかばつくしのこしまおもほえむかも |
973 | 倭道者 雲隠有 雖然 余振袖乎 無礼登母布奈 | ますらをとおもへるわれやみづくきのみづきのうへになみたのごはむ |
(四年壬申藤原宇合卿遣西海道節度使之時高橋連蟲麻呂作歌一首[并短歌])反歌一首 | ||
977 |
千萬乃軍奈利友言擧不為取而可来男常曽念 | ちよろづのいくさなりともことあげせずとりてきぬべきをのことぞおもふ |
雑歌/安倍朝臣蟲麻呂月歌一首 | ||
985 | 雨隠 三笠乃山乎 高御香裳 月乃不出来 夜者更降管 | あまごもりみかさのやまをたかみかもつきのいでこぬよはくたちつつ |
雑歌/藤原八束朝臣月歌一首 | ||
992 | 待難尓 余為月者 妹之著 三笠山尓 隠而有来 | まちかてにわがするつきはいもがきるみかさのやまにこもりてありけり |
雑歌 大伴宿禰家持初月歌一首 | ||
999 | 振仰而若月見者一目見之人眉引所念可聞 | ふりさけてみかづきみればひとめみしひとのまよびきおもほゆるかも |
雑歌 大伴坂上郎女宴親族歌一首 | ||
1000 | 如是為乍 遊飲與 草木尚 春者生管 秋者落去 | かくしつつあそびのみこそくさきすらはるはさきつつあきはちりゆく |
雑歌/筑後守外従五位下葛井連大成遥見海人釣船作歌一首 | ||
1008 | 海□嬬 玉求良之 奥浪 恐海尓 船出為利所見 □=「女」偏に「感」 | あまをとめたまもとむらしおきつなみかしこきうみにふなでせりみゆ |
雑歌 按作村主益人歌一首 | ||
1009 | 不所念来座君乎佐保川乃河蝦不令聞還都流香聞 | おもほえずきまししきみをさほがはのかはづきかせずかへしつるかも |
右、内匠大属按作村主益人、聊設飲饌、以饗長官佐為王。 未及日斜王既還歸。 於時、益人怜惜不○之歸、仍作此歌雑歌 | 右、内匠大属按作村主益人、いささかに飲饌を設けて、長官佐為王に饗す。未だ日斜つにも及ばねば、王既に還帰りぬ。ここに、益人、厭かぬ帰りを怜しび惜しみ、よりてこの歌を作る。 | |
雑歌/(秋八月廿日宴右大臣橘家歌四首) | ||
1030 | 百礒城乃 大宮人者 今日毛鴨 暇无跡 里尓不出将有 | ももしきのおほみやひとはけふもかもいとまをなみとさとにいでずあらむ |
右一首右大臣傳云 故豊嶋采女歌 | ||
雑歌/〔(十二年庚辰冬十月依大宰少貳藤原朝臣廣嗣謀反發軍 幸于伊勢國之時)狭殘行宮大伴宿祢家持作歌二首〕 | ||
1037 | 御食國 志麻乃海部有之 真熊野之 小船尓乗而 奥部榜所見 | みけつくにしまのあまならしまくまののをぶねにのりておきへこぐみゆ |
雑歌/十二年庚辰冬十月依大宰少貳藤原朝臣廣嗣謀反發軍 幸于伊勢國之時河口行宮内舎人大伴宿祢家持作歌一首 | ||
1033 | 河口之 野邊尓廬而 夜乃歴者 妹之手本師 所念鴨 | かはぐちののへにいほりてよのふればいもがたもとしおもほゆるかも |
傷惜寧楽京荒墟作歌三首 作者不審 | ||
1048 | 紅尓深染西情可母寧楽乃京師尓年之歴去倍吉 | くれなゐにふかくしみにしこころかもならのみやこにとしのへぬべき |
1049 | 世間乎常無物跡今曾知平城京師之移徒見者 | よのなかをつねなきものといまそしるならのみやこのうつろふみれば |
1050 | 石綱乃又変若返反青丹吉奈良乃都乎又将見鴨 | いはつなのまたをちかへりあをによしならのみやこをまたみむかも |
雑歌/悲寧樂故郷作歌一首[并短歌] | ||
1051 | 八隅知之 吾大王乃 高敷為 日本國者 皇祖乃 神之御代自 敷座流 國尓之有者 阿礼将座 御子之嗣継 天下 所知座跡 八百萬 千年矣兼而 定家牟 平城京師者 炎乃 春尓之成者 春日山 御笠之野邊尓 櫻花 木晩牢 皃鳥者 間無數鳴 露霜乃 秋去来者 射駒山 飛火賀タケ丹 芽乃枝乎 石辛見散之 狭男壮鹿者 妻呼令動 山見者 山裳見皃石 里見者 里裳住吉 物負之 八十伴緒乃 打經而 思煎敷者 天地乃 依會限 萬世丹 榮将徃迹 思煎石 大宮尚矣 恃有之 名良乃京矣 新世乃 事尓之有者 皇之 引乃真尓真荷 春花乃 遷日易 村鳥乃 旦立徃者 刺竹之 大宮人能 踏平之 通之道者 馬裳不行 人裳徃莫者 荒尓異類香聞 | やすみしし わがおほきみの たかしかす やまとのくには すめろきの かみのみよより しきませる くににしあれば あれまさむ みこのつぎつぎ あめのした しらしまさむと やほよろづ ちとせをかねて さだめけむ ならのみやこは かぎろひの はるにしなれば かすがやま みかさののへに さくらばな このくれがくり かほどりは まなくしばなく つゆしもの あきさりくれば いこまやま とぶひがたけに はぎのえを しがらみちらし さをしかは つまよびとよむ やまみれば やまもみがほし さとみれば さともすみよし もののふの やそとものをの うちはへて おもへりしくは あめつちの よりあひのきはみ よろづよに さかえゆかむと おもへりし おほみやすらを たのめりし ならのみやこを あらたよの ことにしあれば おほきみの ひきのまにまに はるはなの うつろひかはり むらとりの あさだちゆけば さすたけの おほみやひとの ふみならし かよひしみちは うまもゆかず ひともゆかねば あれにけるかも |
(右廿一首田邊福麻呂之歌集中出也) | ||
巻七 | ||
歌番号 | ||
雑歌 詠月 | ||
1073 | 常者曽 不念物乎 此月之 過匿巻 惜夕香裳 | つねはさねおもはぬものをこのつきのすぎかくらまくをしきよひかも |
1074 | 大夫之 弓上振起 猟高之 野邊副清 照月夜可聞 | ますらをのゆずゑふりおこしかりたかののへさへきよくてるつくよかも |
1075 | 山末尓 不知夜歴月乎 将出香登 待乍居尓 夜曽降家類 | やまのはにいさよふつきをいでむかとまちつつをるによぞふけにける |
1076 | 明日之夕 将照月夜者 片因尓 今夜尓因而 夜長有 | あすのよひてらむつくよはかたよりにこよひによりてよながくあらなむ |
1081 | 夜干玉之 夜渡月乎 将留尓 西山邊尓 <塞>毛有粳毛 | ぬばたまのよわたるつきをとどめむににしのやまへにせきもあらぬかも |
1086 | 水底之 玉障清 可見裳 照月夜鴨 夜之深去者 | みなそこのたまさへさやにみつべくもてるつくよかもよのふけゆけば |
1087 | 霜雲入 為登尓可将有 久堅之 夜<渡>月乃 不見念者 | しもぐもりすとにかあるらむひさかたのよわたるつきのみえなくおもへば |
雑歌 詠雲 | ||
1091 | 痛足河 々浪立奴 巻目之 由槻我高仁 雲居立有良志 | あなしがはかはなみたちぬまきむくのゆつきがたけにくもゐたてるらし |
(右二首柿本朝臣人麻呂之歌集出) | ||
雑歌 詠山 | ||
1097 | 三毛侶之 其山奈美尓 兒等手乎 巻向山者 継之宜霜 | みもろのそのやまなみにこらがてをまきむくやまはつぎしよろしも |
(右三首柿本朝臣人麻呂之歌集出) | ||
雑歌 詠岳 | ||
1103 | 片岡之 此向峯 椎蒔者 今年夏之 陰尓将化疑 | かたをかのこのむかつをにしひまかばことしのなつのかげにならむか |
雑歌 詠河 | ||
1109 | 音聞目者未見吉野川六田之与杼乎今日見鶴鴨 | おとにききめにはいまだみぬよしのがわむつたのよどをけふみつるかも |
1111 | 泊瀬川 白木綿花尓 堕多藝都 瀬清跡 見尓来之吾乎 | はつせがはしらゆふはなにおちたぎつせをさやけみとみにこしわれを |
芳野作 | ||
1135 | 皆人之 戀三芳野 今日見者 諾母戀来 山川清見 | みなひとのこふるみよしのけふみればうべもこひけりやまかはきよみ |
攝津作 | ||
1151 | 暇有者拾尓将徃住吉之岸因云戀忘貝 | いとまあらばひりひにゆかむすみのえのきしによるといふこひわすれがひ |
1153 | 住吉尓徃云道尓昨日見之戀忘貝事二四有家里 | すみのえにくといふみちにきのふみしこひわすれがひことにしありけり |
雑歌 覊旅作 | ||
1192 | 山越而遠津之浜之石管自迄吾来含而有待 | やまこえてとほつのはまのいはつつじわがくるまでにふふみてありまて |
1219 | 吾舟者 従奥莫離 向舟 片待香光 従浦榜将會 | わがふねはおきゆなさかりむかへぶねかたまちがてりうらゆこぎあはむ |
1227 | 綿之底 奥己具舟乎 於邊将因 風毛吹額 波不立而 | わたのそこおきこぐふねをへによせむかぜもふかぬかなみたてずして |
1253 | 君為 浮沼池 菱採 我染袖 沾在哉 | きみがためうきぬのいけのひしつむとわがそめしそでぬれにけるかも |
右四首柿本朝臣人麻呂之歌集出 | ||
雑歌 臨時 | ||
1259 | 月草尓 衣曽染流 君之為 綵色衣 将摺跡念而 | つきくさにころもぞそむるきみがためまだらのころもすらむとおもひて |
雑歌 就所發思 | ||
1272 | 兒等手乎 巻向山者 常在常 過徃人尓 徃巻目八方 | こらがてをまきむくやまはつねにあれどすぎにしひとにゆきまかめやも |
(右二首柿本朝臣人麻呂之歌集出) | ||
雑歌 行路 | ||
1275 | 遠有而 雲居尓所見 妹家尓 早将至 歩黒駒 | とほくありてくもゐにみゆるいもがいへにはやくいたらむあゆめくろこま |
右一首柿本朝臣人麻呂之歌集出 | ||
雑歌 旋頭歌 | ||
1283 | 梓弓 引津邊在 莫謂花 及採 不相有目八方 勿謂花 | あづさゆみひきつのへなるなのりそのはな つむまでにあはずあらめやもなのりそのはな |
右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出) | ||
雑歌旋頭歌 | ||
1299 | 春日在 三笠乃山二 月船出 遊士之 飲酒坏尓 陰尓所見管 | かすがなるみかさのやまにつきのふねいづ みやびをののむさかづきにかげにみえつ |
譬喩歌 寄衣 | ||
1302 | 千各人雖云織次我廿物白麻衣 | かにかくにひとはいふともおりつがむわがはたもののしろきあさごろも |
譬喩歌 寄木 | ||
1308 | 天雲 棚引山 隠在 吾下心 木葉知 | あまくものたなびくやまのこもりたるあがしたごころこのはしるらむ |
(右十五首柿本朝臣人麻呂之歌集出) | ||
譬喩歌 寄草 | ||
1343 | 鴨頭草丹 服色取 揩目伴 移變色登 称之苦沙 | つきくさにころもいろどりすらめどもうつろふいろといふがくるしさ |
1344 | 紫 絲乎曽吾搓 足桧之 山橘乎 将貫跡念而 | むらさきのいとをぞわがよるあしひきのやまたちばなをぬかむとおもひて |
1350 | 姫押 生澤邊之 真田葛原 何時鴨絡而 我衣将服 | をみなへしさきさはのへのまくずはらいつかもくりてわがきぬにきむ |
1356 | 吾情湯谷絶谷浮蓴邊毛奥毛依勝益士 | あがこころゆたにたゆたにうきぬなはへにもおきにもよりかつましじ |
譬喩歌 寄木 | ||
1362 | 波之吉也思 吾家乃毛桃 本繁 花耳開而 不成在目八方 | はしきやしわぎへのけもももとしげみはなのみさきてならざらめやも |
譬喩歌 寄神 | ||
1381 | 木綿懸而 祭三諸乃 神佐備而 齊尓波不在 人目多見許曽 | ゆふかけてまつるみもろのかむさびていむにはあらずひとめおほみこそ |
1382 | 木綿懸而 齊此神社 可超 所念可毛 戀之繁尓 | ゆふかけていはふこのもりこえぬべくおもほゆるかもこひのしげきに |
巻八 | ||
歌番号 | ||
春雑歌/駿河釆女歌一首 | ||
1424 | 沫雪香 薄太礼尓零登 見左右二 流倍散波 何物之花其毛 | あわゆきかはだれにふるとみるまでにながらへちるはなにのはなぞも |
春雑歌/尾張連歌二首 [名闕] | ||
1425 | 春山之 開乃乎為里尓 春菜採 妹之白紐 見九四与四門 | はるやまのさきのををりにはるなつむいもがしらひもみらくしよしも |
1426 | 打靡 春来良之 山際 遠木末乃 開徃見者 | うちなびくはるきたるらしやまのまのとほきこぬれのさきゆくみれば |
春雑歌/(山部宿祢赤人歌四首) | ||
1429 | 足比奇乃 山櫻花 日並而 如是開有者 甚戀目夜裳 | あしひきのやまさくらばなひならべてかくさきたらばいたくこひめやも |
春雑歌/草香山歌一首 | ||
1432 | 忍照 難波乎過而 打靡 草香乃山乎 暮晩尓 吾越来者 山毛世尓 咲有馬酔木乃 不悪 君乎何時 徃而早将見 | おしてる なにはをすぎて うちなびく くさかのやまを ゆふぐれに わがこえくれば やまもせに さけるあしびの あしからぬ きみをいつしか ゆきてはやみむ |
右一首依作者微不顕名字 | ||
山部宿祢赤人歌一首 | ||
1435 | 百濟野乃芽古枝尓待春跡居之鴬鳴尓鶏鵡鴨 | くだらののはぎのふるえにはるまつとをりしうぐひすなきにけむかも |
大伴宿祢家持鴬歌一首 | ||
1445 | 打霧之 雪者零乍 然為我二 吾宅乃苑尓 鴬鳴裳 | うちきらしゆきはふりつつしかすがにわぎへのそのにうぐひすなくも |
大伴坂上郎女歌一首 | ||
1449 | 風交 雪者雖零 實尓不成 吾宅之梅乎 花尓令落莫 | かぜまじりゆきはふるともみにならぬわぎへのうめをはなにちらすな |
春相聞/大伴家持 | ||
1452 | 吾屋外尓 蒔之瞿麥 何時毛 花尓咲奈武 名蘇經乍見武 | わがやどにまきしなでしこいつしかもはなにさきなむなそへつつみむ |
大伴坂上郎女歌一首 | ||
1454 | 情具伎 物尓曽有鶏類 春霞 多奈引時尓 戀乃繁者 | こころぐきものにぞありけるはるかすみたなびくときにこひのしげきは |
笠女郎贈大伴家持歌一首 春相聞 | ||
1455 | 水鳥之 鴨乃羽色乃 春山乃 於保束無毛 所念可聞 | みづどりのかものはいろのはるやまのおほつかなくもおもほゆるかも |
紀女郎歌一首 [名曰小鹿也] | ||
1456 | 闇夜有者 宇倍毛不来座 梅花 開月夜尓 伊而麻左自常屋 | やみならばうべもきまさじうめのはなさけるつくよにいでまさじとや |
藤原朝臣廣嗣櫻花贈娘子歌一首 | ||
1460 | 此花乃一与能内尓百種乃言曽隠有於保呂可尓為莫 | このはなのひとよのうちにももくさのことぞこもれるおほろかにすな |
娘子和歌一首 | ||
1461 | 此花乃一与能裏波百種乃言持不勝而所折家良受也 | このはなのひとよのうちはももくさのこともちかねてをらえけらずや |
厚見王贈久米女郎歌一首 | ||
1462 | 室戸在桜花者今毛香聞松風疾地尓落良武 | やどにあるさくらのはなはいまもかもまつかぜはやみつちにちるらむ |
久米女郎報贈歌一首 | ||
1463 | 世間毛常尓師不有者室戸尓有桜花乃不所比日可聞 | よのなかもつねにしあらねばやどにあるさくらのはなのちれるころかも |
夏雜歌 / 藤原夫人歌一首 [明日香清御原宮御宇天皇之夫人也 字曰大原大刀自 即新田部皇子之母也] | ||
1469 | 霍公鳥 痛莫鳴 汝音乎 五月玉尓 相貫左右二 | ほととぎすいたくななきそながこゑをさつきのたまにあへぬくまでに |
夏雜歌 / 志貴皇子御歌一首 | ||
1470 | 神名火乃 磐瀬之社之 霍公鳥 毛無乃岳尓 何時来将鳴 | かむなびのいはせのもりのほととぎすけなしのをかにいつかきなかむ |
夏雜歌/弓削皇子御歌一首 | ||
1471 | 霍公鳥 無流國尓毛 去而師香 其鳴音手 間者辛苦母 | ほととぎすなかるくににもゆきてしかそのなくこゑをきけばくるしも |
夏雜歌 /大伴坂上郎女霍公鳥歌一首 | ||
1479 | 何奇毛 幾許戀流 霍公鳥 鳴音聞者 戀許曽益礼 | なにしかもここだくこふるほととぎすなくこゑきけばこひこそまされ |
夏雜歌/(大伴書持歌二首) | ||
1485 | 我屋戸前乃 花橘尓 霍公鳥 今社鳴米 友尓相流時 | わがやどのはなたちばなにほととぎすいまこそなかめともにあへるとき |
夏雑歌/大伴家持惜橘花歌一首 | ||
1493 | 吾屋前之 花橘者 落過而 珠尓可貫 實尓成二家利 | わがやどのはなたちばなはちりすぎてたまにぬくべくみになりにけり |
夏雑歌/大伴村上橘歌一首 | ||
1497 | 吾屋前乃 花橘乎 霍公鳥 来鳴令動而 本尓令散都 | わがやどのはなたちばなをほととぎすきなきとよめてもとにちらしつ |
夏相聞 大伴坂上郎女歌一首 | ||
1504 | 夏野之繁見丹開有姫由理乃不所知戀者苦物曽 | なつのののしげみにさけるひめゆりのしらえぬこひはくるしきものぞ |
夏相聞 小治田朝臣廣耳歌一首 | ||
1505 | 霍公鳥 鳴峯乃上能 宇乃花之 ウキ事有哉 君之不来益 | ほととぎすなくをのうへのうのはなのうきことあれやきみがきまさぬ |
夏相聞 紀朝臣豊河歌一首 | ||
1507 | 吾妹兒之家乃垣内乃佐由理花由利登云者不欲云二似 | わぎもこがいへのかきつのさゆりばなゆりといへるはいなといふににる |
秋雑歌 山上憶良七夕歌十二首 | ||
1523 | 久方之 漢瀬尓 船泛而 今夜可君之 我許来益武 | ひさかたのあまのかはせにふねうけてこよひかきみがわがりきまさむ |
右神亀元年七月七日夜左大臣宅 | ||
1524 | 牽牛者 織女等 天地之 別時由 伊奈宇之呂 河向立 思空 不安久尓 嘆空 不安久尓 青浪尓 望者多要奴 白雲尓 渧者盡奴 如是耳也 伊伎都枳乎良牟 如是耳也 戀都追安良牟 佐丹塗之 小船毛賀茂 玉纒之 真可伊毛我母 [一云 小棹毛何毛] 朝奈藝尓 伊可伎渡 夕塩尓 [一云 夕倍尓毛] 伊許藝渡 久方之 天河原尓 天飛也 領巾可多思吉 真玉手乃 玉手指更 餘宿毛 寐而師可聞 [一云 伊毛左祢而師加] 秋尓安良受登母 [一云 秋不待登毛] | ひこほしは たなばたつめと あめつちの わかれしときゆ いなうしろ かはにむきたち おもふそら やすけなくに なげくそら やすけなくに あをなみに のぞみはたえぬ しらくもに なみたはつきぬ かくのみや いきづきをらむ かくのみや こひつつあらむ さにぬりの をぶねもがも たままきの まかいもがも [をさをもがも] あさなぎに いかきわたり ゆふしほに [ゆふべにも] いこぎわたり ひさかたの あまのかはらに あまとぶや ひれかたしき またまでの たまでさしかへ あまたよも いねてしかも [いもさねてしか] あきにあらずとも [あきまたずとも] |
(右天平元年七月七日夜憶良仰觀天河 [一云帥家作]) | ||
藤原宇合卿歌一首 | ||
1539 |
我背兒乎何時曽且今登待苗尓於毛也者将見秋風吹 | わがせこをいつぞいまかとまつなへにおもやはみえむあきのかぜふ |
藤原朝臣八束歌一首 旋頭歌・秋雑歌 | ||
1551 |
棹四香能 芽二貫置有 露之白珠 相佐和仁 誰人可毛 手尓将巻知布 | さをしかのはぎにぬきおけるつゆのしらたま あふさわにたれのひとかもてにまかむちふ |
故郷豊浦寺之尼私房宴歌三首 秋雑歌 | ||
1561 |
明日香河 逝廻丘之 秋芽子者 今日零雨尓 落香過奈牟 | あすかがはゆきみるをかのあきはぎはけふふるあめにちりかすぎなむ |
右一首丹比真人國人 | ||
1562 |
鶉鳴 古郷之 秋芽子乎 思人共 相見都流可聞 | うづらなくふりにしさとのあきはぎをおもふひとどちあひみつるかも |
1563 |
秋芽子者 盛過乎 徒尓 頭刺不挿 還去牟跡哉 | あきはぎはさかりすぐるをいたづらにかざしにささずかへりなむとや |
右二首沙弥尼等 | ||
秋雑歌/日置長枝娘子歌一首 | ||
1568 | 秋付者 尾花我上尓 置露乃 應消毛吾者 所念香聞 | あきづけばをばながうへにおくつゆのけぬべくもわはおもほゆるかも |
大伴家持秋歌四首 | ||
1570 | 久堅之 雨間毛不置 雲隠 鳴曽去奈流 早田鴈之哭 | ひさかたのあままもおかずくもがくりなきぞゆくなるわさだかりがね |
1571 | 雲隠 鳴奈流鴈乃 去而将居 秋田之穂立 繁之所念 | くもがくりなくなるかりのゆきてゐむあきたのほたちしげくしおもほゆ |
1572 | 雨隠 情欝悒 出見者 春日山者 色付二家利 | あまごもりこころいぶせみいでみればかすがのやまはいろづきにけり |
1573 | 雨晴而 清照有 此月夜 又更而 雲勿田菜引 | あめはれてきよくてりたるこのつくよまたさらにしてくもなたなびき |
右四首天平八年丙子秋九月作 | ||
藤原朝臣八束歌二首 | ||
1574 | 此間在而 春日也何處 雨障 出而不行者 戀乍曽乎流 | ここにありてかすがやいづちあまつつみいでてゆかねばこひつつぞをる |
1575 | 春日野尓 鍾礼零所見 明日従者 黄葉頭刺牟 高圓乃山 | かすがのにしぐれふるみゆあすよりはもみちかざさむたかまとのやま |
秋雑歌/橘朝臣奈良麻呂結集宴歌十一首 | ||
1585 | 不手折而落者惜常我念之秋黄葉乎挿頭鶴鴨 | たをらずてちりなばをしとあがおもひしあきのもみちをあざしつるかも |
1586 | 希将見人尓令見跡黄葉乎手折曾我来師雨零久仁 | めづらしきひとにみせむともみちばをたをりそあがこしあめのふらくに |
右二首、橘朝臣奈良麻呂 | ||
1591 | 足引乃 山之黄葉 今夜毛加 浮去良武 山河之瀬尓 | あしひきのやまのもみちばこよひもかうかびゆくらむやまがはのせに |
右一首大伴宿祢書持( / 以前冬十月十七日集於右大臣橘卿之舊宅宴飲也) | ||
1595 | 黄葉乃 過麻久惜美 思共 遊今夜者 不開毛有奴香 | もみちばのすぎまくをしみおもふどちあそぶこよひはあけずもあらぬか |
右一首内舎人大伴宿祢家持 / 以前冬十月十七日集於右大臣橘卿之舊宅宴飲也 | ||
秋雑歌/大伴宿祢像見歌一首 | ||
1599 | 秋芽子乃 枝毛十尾二 降露乃 消者雖消 色出目八方 | あきはぎのえだもとををにおくつゆのけなばけぬともいろにいでめやも |
大伴宿祢家持到娘子門作歌一首 | ||
1600 | 妹家之 門田乎見跡 打出来之 情毛知久 照月夜鴨 | いもがいへのかどたをみむとうちいでこしこころもしるくてるつくよかも |
秋雑歌/(大伴宿祢家持秋歌三首) | ||
1603 | 狭尾壮鹿乃 胸別尓可毛 秋芽子乃 散過鶏類 盛可毛行流 | さをしかのむなわけにかもあきはぎのちりすぎにけるさかりかもいぬる |
右天平十五年癸未秋八月見物色作 | ||
大伴宿祢家持歌一首 | ||
1609 | 高圓之 野邊乃秋芽子 此日之 暁露尓 開兼可聞 | たかまとののへのあきはぎこのころのあかときつゆにさきにけむかも |
秋相聞/丹比真人歌一首 [名闕] | ||
1613 | 宇陀乃野之 秋芽子師弩藝 鳴鹿毛 妻尓戀樂苦 我者不益 | うだのののあきはぎしのぎなくしかもつまにこふらくわれにはまさじ |
笠女郎贈大伴宿祢家持歌一首 秋相聞 | ||
1620 | 毎朝 吾見屋戸乃 瞿麦之 花尓毛君波 有許世奴香裳 | あさごとにわがみるやどのなでしこのはなにもきみはありこせぬかも |
冬雜歌 / 舎人娘子雪歌一首 | ||
1640 | 大口能 真神之原尓 零雪者 甚莫零 家母不有國 | おほくちのまかみのはらにふるゆきはいたくなふりそいへもあらなくに |
冬雜歌 / 大伴坂上郎女歌一首 | ||
1655 | 沫雪乃 比日續而 如此落者 梅始花 散香過南 | あわゆきのこのころつぎてかくふらばうめのはつはなちりかすぎなむ |
安倍朝臣奥道雪歌一首 | ||
1646 | 棚霧合 雪毛零奴可 梅花 不開之代尓 曽倍而谷将見 | たなぎらひゆきもふらぬかうめのはなさかぬがしろにそへてだにみむ |
若櫻部朝臣君足雪歌一首 | ||
1647 | 天霧之 雪毛零奴可 灼然 此五柴尓 零巻乎将見 | あまぎらしゆきもふらぬかいちしろくこのいつしばにふらまくをみむ |
冬相聞/ / 三國真人人足歌一首 | ||
1659 | 高山之 菅葉之努藝 零雪之 消跡可曰毛 戀乃繁鶏鳩 | たかやまのすがのはしのぎふるゆきのけぬといふべくもこひのしげけく |
1660 | 酒杯尓梅花浮念共飲而後者落去登母与之 | さかづきにうめのはなうかべおもふどちのみてののちはちりぬともよし |
1661 | 官尓毛縦賜有今夜耳将欲酒可毛散許須奈由米 | つかさにもゆるしたまへりこよひのみのまむさけかもちりこすなゆめた |
巻九 | ||
歌番号 | ||
雑歌/(大寳元年辛丑冬十月太上天皇大行天皇幸紀伊國時歌十三首) | ||
1677 |
風莫乃 濱之白浪 徒 於斯依久流 見人無 [一云 於斯依来藻] | かざなしのはまのしらなみいたづらにここによせくるみるひとなしに [ここによせくも] |
右一首山上臣憶良類聚歌林曰 長忌寸意吉麻呂應詔作此歌 | ||
(雑歌/獻舎人皇子歌二首) | ||
1687 |
妹手 取而引与治 フサ手折 吾刺可 花開鴨 | いもがてをとりてひきよぢふさたをりわがかざすべくはなさけるかも |
(右柿本朝臣人麻呂之歌集所出) | ||
雑歌/舎人皇子御歌一首 | ||
1710 |
黒玉 夜霧立 衣手 高屋於 霏□麻天尓 (□=雨冠に微) | ぬばたまのよぎりはたちぬころもでをたかやのうへにたなびくまでに |
(右柿本朝臣人麻呂之歌集所出) | ||
(雑歌/幸芳野離宮時歌二首) | ||
1717 |
瀧上乃 三船山従 秋津邊 来鳴度者 誰喚兒鳥 | たきのうへのみふねのやまゆあきづへにきなきわたるはたれよぶこどり |
(右二首作者未詳) | ||
雑歌 絹歌一首 | ||
1727 | 河蝦鳴六田乃河之川楊乃根毛居侶雖見不飽河鴨 | かはづなくむつたのかはのかはやなぎのねもころみれどあかぬかはかも |
宇合卿歌三首 | ||
1733 |
暁之夢所見乍梶嶋乃石超浪乃敷弖志所念 | あかときのいめにみえつつかぢしまのいそこすなみのしきてしおもほ |
1734 | 山品之石田乃小野之母蘇原見乍哉公之山道越良武 | やましなのいはたのをののははそはらみつつかきみがやまぢこゆら |
1735 |
山科乃石田社尓布麻越者蓋吾妹尓直相鴨 | やましなのいはたのもりにぬさおかばけだしわぎもにただにあはむ |
式部大倭芳野作歌一首 | ||
1740 |
山高見 白木綿花尓 落多藝津 夏身之川門 雖見不飽香開 | やまたかみしらゆふばなにおちたぎつなつみのかはとみれどあかぬかも |
兵部川原歌一首 | ||
1741 |
大瀧乎 過而夏箕尓 傍居而 浄川瀬 見何明沙 | おほたきをすぎてなつみにそひをりてきよきかはせをみるがさやけさ |
(抜氣大首任筑紫時娶豊前國娘子紐兒作歌三首) | ||
1772 |
石上 振乃早田乃 穂尓波不出 心中尓 戀流比日 | いそのかみふるのわさだのほにはいでずこころのうちにこふるこのころ |
与妻歌一首 | ||
1786 | 雪己曽波春日消良米心佐閇消失多列夜言母不徃来 | ゆきこそばはるひきゆらめこころさへきえうせたれやこともかよはぬ |
妻和歌一首 | ||
1787 | 松反四臂而有八羽三栗中上不来麻呂等言八子 | まつがへりしひてあれやはみつぐりのなかのぼりこぬまろといふやつこ |
((天平元年己巳冬十二月歌一首[并短歌])反歌) | ||
1793 | 吾妹兒之 結手師紐乎 将解八方 絶者絶十方 直二相左右二 | わぎもこがゆひてしひもをとかめやもたえばたゆともただにあふまでに |
右件五首笠朝臣金村之歌中出 | ||
天平五年癸酉、遣唐使舶発難波入海之時、親母贈子歌一首 并短歌 | ||
1794 | 秋芽子乎妻間鹿許曾一子二子持有跡五十戸鹿児自物吾独子之草枕 客二師往者竹珠乎密貫垂斎戸尓木綿取四手而忌日管 吾思吾子真好去有欲得 |
あきはぎをつまどふかこそひとりごにこもてりといへかこじものあがひとりこのくさまくら たびにしゆけばたかたまをしじにぬきたれいはひへにゆふとりしでていはひつつ あがおもふあがこまさきくありこそ |
反歌 | ||
1795 | 客人之宿将為野尓霜降者吾子羽褁天乃鶴群 | たびびとのやどりせむのにしもふらばあがこはぐくめあめのたづむら |
挽歌 詠勝鹿真間娘子歌一首 并短歌 | ||
1811 | 鶏鳴吾妻乃国尓古昔尓有家留事登至今不絶言来勝壮鹿乃 真間乃手児奈我麻衣尓青衿著直佐麻乎裳者織服而髪谷母 掻者不梳履乎谷不者雖行錦綾之中丹褁有斎児毛 妹尓将及哉望月之満有面輪二如花咲而立有者夏虫乃 入火之如水門入尓船己具如久帰香具礼人乃言時幾時毛 不生物呼何為跡歟身乎田名知而浪音乃驟湊之奥津城尓 妹之臥勢流遠代尓有家類事乎昨日霜将見我其登毛所念可聞 |
とりがなくあずまのくににいにしへにありけることといままでにたえずいひくるかつしかの ままのてごながあさきぬにあをくびつけひたさををもにはおりきてかみだにも かきはけづらずくつをだにはかずゆけどもにしきあやのなかにつつめるいはひごも いもにしかめやもちづきのたれるおもわにはなのごとゑみてたてればなつむしの ひにいるがごとみなといりにふねこぐごとくゆきかぐれひとのいふときいくばくも いけらぬものをなにすとかみをたなしりてなみのとのさわぐみなとのおくつきに いもがこやせるとほきよにありけることをきのふしもみけむがごとおもほゆるかも |
反歌 | ||
1812 | 勝壮鹿之真間之井乎見者立平之水挹家武手児名之所念 | かつしかのままのゐをみればたちならしみずくましけむてごなしおもほゆ |
見菟原處女墓歌一首[并短歌] | ||
1813 | 葦屋之 菟名負處女之 八年兒之 片生之時従 小放尓 髪多久麻弖尓 並居 家尓毛不所見 虚木綿乃 牢而座在者 見而師香跡 悒憤時之 垣廬成 人之誂時 智弩壮士 宇奈比壮士乃 廬八燎 須酒師競 相結婚 為家類時者 焼大刀乃 手頴押祢利 白檀弓<靫取負而 入水 火尓毛将入跡 立向 競時尓 吾妹子之 母尓語久 倭文手纒 賎吾之故 大夫之 荒争見者 雖生 應合有哉<宍串呂 黄泉尓将待跡 隠沼乃 下延置而 打歎 妹之去者 血沼壮士 其夜夢見 取次寸 追去祁礼婆 後有 菟原壮士伊 仰天 サケビ於良妣 ツ地 牙喫建怒而 如己男尓 負而者不有跡 懸佩之 小劔取佩 冬ふ蕷都良 尋去祁礼婆 親族共 射歸集 永代尓 標将為跡 遐代尓 語将継常 處女墓 中尓造置 壮士墓 此方彼方二 造置有 故縁聞而 雖不知 新喪之如毛 哭泣鶴鴨勝壮鹿之真間之井乎見者立平之 | あしのやの うなひをとめの やとせこの かたおひのときゆ をばなりに かみたくまでに ならびをる いへにもみえず うつゆふの こもりてをれば みてしかと いぶせむときの かきほなす ひとのとふとき ちぬをとこ うなひをとこの ふせやたき すすしきほひ あひよばひ しけるときは やきたちの たかみおしねり しらまゆみ ゆきとりおひて みづにいり ひにもいらむと たちむかひ きほひしときに わぎもこが ははにかたらく しつたまき いやしきわがゆゑ ますらをの あらそふみれば いけりとも あふべくあれや ししくしろ よみにまたむと こもりぬの したはへおきて うちなげき いもがいぬれば ちぬをとこ そのよいめにみ とりつづき おひゆきければ おくれたる うなひをとこい あめあふぎ さけびおらび つちをふみ きかみたけびて もころをに まけてはあらじと かけはきの をだちとりはき ところづら とめゆきければ うがらどち いゆきつどひ ながきよに しるしにせむと とほきよに かたりつがむと をとめはか なかにつくりおき をとこはか このもかのもに つくりおける ゆゑよしききて しらねども にひものごとも ねなきつるかも |
反歌 | ||
1814 | 葦屋之宇奈比處女之奥槨乎徃来跡見者哭耳之所泣 | あしのやのうなひをとめのおくつきをゆきくとみればねのみしなかゆ |
1815 | 墓上之木枝靡有如聞陳努壮士尓之依家良信母 | はかのうへのこのえなびけりききしごとちぬをとこにしよりにけらしも |
巻十 | ||
歌番号 | ||
春雑歌 | ||
1816 | 久方之 天芳山 此夕 霞霏□ 春立下 (□=雨冠に微) | ひさかたのあめのかぐやまこのゆふへかすみたなびくはるたつらしも |
1817 | 巻向之 桧原丹立流 春霞 欝之思者 名積米八方 | まきむくのひはらにたてるはるかすみおほにしおもはばなづみこめやも |
1818 | 古 人之殖兼 杉枝 霞霏□ 春者来良之 □=雨冠の下に微 | いにしへのひとのうゑけむすぎがえにかすみたなびくはるはきぬらし |
1819 | 子等我手乎 巻向山丹 春去者 木葉凌而 霞霏□ □=雨冠の下に微 | こらがてをまきむくやまにはるさればこのはしのぎてかすみたなびく |
1820 | 玉蜻 夕去来者 佐豆人之 弓月我高荷 霞霏□ □=雨冠の下に微 | たまかぎるゆふさりくればさつひとのゆつきがたけにかすみたなびく |
1821 | 今朝去而 明日者来牟等 云子鹿丹 旦妻山丹 霞霏□ □=雨冠の下に微 | けさゆきてあすはきなむといひしこがあさづまやまにかすみたなびく |
1822 | 子等名丹 關之宜 朝妻之 片山木之尓 霞多奈引 | こらがなにかけのよろしきあさづまのかたやまきしにかすみたなびく |
(右柿本朝臣人麻呂歌集出) | ||
春雑歌 詠鳥 | ||
1823 | 打霏 春立奴良志 吾門之 柳乃宇礼尓 鴬鳴都 | うちなびくはるたちぬらしわがかどのやなぎのうれにうぐひすなきつ |
1824 | 梅花 開有岳邊尓 家居者 乏毛不有 鴬之音 | うめのはなさけるをかへにいへをればともしくもあらずうぐひすのこゑ |
1825 | 春霞 流共尓 青柳之 枝喙持而 鴬鳴毛 | はるかすみながるるなへにあをやぎのえだくひもちてうぐひすなくも |
1826 | 吾瀬子乎 莫越山能 喚子鳥 君喚變瀬 夜之不深刀尓 | わがせこをなこしのやまのよぶこどりきみよびかへせよのふけぬとに |
1827 | 朝井代尓 来鳴杲鳥 汝谷文 君丹戀八 時不終鳴 | あさゐでにきなくかほどりなれだにもきみにこふれやときをへずなく |
1828 | 冬隠春去来之足比木之山二文野二文鶯鳴裳 | ふゆごもりはるさりくればあしひきのやまにものにもうぐひすなくも |
1829 | 紫之 根延横野之 春野庭 君乎懸管 鴬名雲 | むらさきのねばふよこののはるのにはきみをかけつつうぐひすなくも |
1830 | 春之在者 妻乎求等 鴬之 木末乎傳 鳴乍本名 | はるさればつまをもとむとうぐひすのこぬれをつたひなきつつもとな |
1831 | 春日有 羽買之山従 狭帆之内敝 鳴徃成者 孰喚子鳥 | かすがなるはがひのやまゆさほのうちへなきゆくなるはたれよぶこどり |
1832 | 不答尓 勿喚動曽 喚子鳥 佐保乃山邊乎 上下二 | こたへぬになよびとよめそよぶこどりさほのやまへをのぼりくだりに |
1833 | 梓弓 春山近 家居之 續而聞良牟 鴬之音 | あづさゆみはるやまちかくいへをればつぎてきくらむうぐひすのこゑ |
1834 | 打靡 春去来者 小竹之末丹 尾羽打觸而 鴬鳴毛 | うちなびくはるさりくればしののうれにをはうちふれてうぐひすなくも |
1835 | 朝霧尓 之努々尓所沾而 喚子鳥 三船山従 喧渡所見 | あさぎりにしののにぬれてよぶこどりみふねのやまゆなきわたるみゆ |
春雑歌 詠雪 | ||
1836 | 打靡 春去来者 然為蟹 天雲霧相 雪者零管 | うちなびくはるさりくればしかすがにあまくもきらひゆきはふりつつ |
1837 | 梅花 零覆雪乎 褁持 君令見跡 取者消管 | うめのはなふりおほふゆきをつつみもちきみにみせむととればけにつつ |
1838 | 梅花 咲落過奴 然為蟹 白雪庭尓 零重管 | うめのはなさきちりすぎぬしかすがにしらゆきにはにふりしきりつつ |
1839 | 今更雪零目八方蜻火之燎留春部常成西物乎 | いまさらにゆきふらめやもかぎろひのもゆるはるへとなりにしものを |
1840 | 風交 雪者零乍 然為蟹 霞田菜引 春去尓来 | かぜまじりゆきはふりつつしかすがにかすみたなびきはるさりにけり |
1841 | 山際尓 鴬喧而 打靡 春跡雖念 雪落布沼 | やまのまにうぐひすなきてうちなびくはるとおもへどゆきふりしきぬ |
1842 | 峯上尓 零置雪師 風之共 此聞散良思 春者雖有 | をのうへにふりおくゆきしかぜのむたここにちるらしはるにはあれども |
右一首筑波山作 | ||
1843 | 為君 山田之澤 恵具採跡 雪消之水尓 裳裾所沾 | きみがためやまたのさはにゑぐつむとゆきげのみづにものすそぬれぬ |
1844 | 梅枝尓 鳴而移徙 鴬之 翼白妙尓 沫雪曽落 | うめがえになきてうつろふうぐひすのはねしろたへにあわゆきぞふる |
1845 | 山高三零来雪乎梅花落鴨来跡念鶴鴨 [一云 梅花開香裳落跡] | やまたかみふりくるゆきをうめのはなちりかもくるとおもひつるかも [うめのはなさきかもちると] |
1846 | 除雪而梅莫戀足曳之山片就而家居為流君 | ゆきをおきてうめをなこひそあしひきのやまかたづきていへゐせるきみ |
右二首、問答 | ||
春雑歌 詠霞 | ||
1847 | 昨日社 年者極之賀 春霞 春日山尓 速立尓来 | きのふこそとしははてしかはるかすみかすがのやまにはやたちにけり |
1848 | 寒過 暖来良思 朝烏指 滓鹿能山尓 霞軽引 | ふゆすぎてはるきたるらしあさひさすかすがのやまにかすみたなびく |
1849 | 鴬之 春成良思 春日山 霞棚引 夜目見侶 | うぐひすのはるになるらしかすがやまかすみたなびくよめにみれども |
春雑歌 詠柳 | ||
1850 | 霜干 冬柳者 見人之 蘰可為 目生来鴨 | しもがれのふゆのやなぎはみるひとのかづらにすべくもえにけるかも |
1851 | 淺緑 染懸有跡 見左右二 春楊者 目生来鴨 | あさみどりそめかけたりとみるまでにはるのやなぎはもえにけるかも |
1852 | 山際尓 雪者零管 然為我二 此河楊波 毛延尓家留可聞 | やまのまにゆきはふりつつしかすがにこのかはやぎはもえにけるかも |
1853 | 山際之 雪者不消有乎 水飯合 川之副者 目生来鴨 | やまのまのゆきはけずあるをみなぎらふかはのそひにはもえにけるかも |
1854 | 朝旦 吾見柳 鴬之 来居而應鳴 森尓早奈礼 | あさなさなわがみるやなぎうぐひすのきゐてなくべきもりにはやなれ |
1855 | 青柳之 絲乃細紗 春風尓 不乱伊間尓 令視子裳欲得 | あをやぎのいとのくはしさはるかぜにみだれぬいまにみせむこもがも |
1856 | 百礒城 大宮人之 蘰有 垂柳者 雖見不飽鴨 | ももしきのおほみやひとのかづらけるしだりやなぎはみれどあかぬかも |
1857 | 梅花 取持見者 吾屋前之 柳乃眉師 所念可聞 | うめのはなとりもちみればわがやどのやなぎのまよしおもほゆるかも |
春雑歌 詠花 | ||
1858 | 鴬之木傳梅乃移者櫻花之時片設奴山際 | うぐひすのこづたふうめのうつろへばさくらのはなのときかたまけぬ |
1859 | 櫻花 時者雖不過 見人之 戀盛常 今之将落 | さくらばなときはすぎねどみるひとのこひのさかりといましちるらむ |
1860 | 我刺 柳絲乎 吹乱 風尓加妹之 梅乃散覧 | わがさせるやなぎのいとをふきみだるかぜにかいもがうめのちるらむ |
1861 | 毎年 梅者開友 空蝉之 世人我羊蹄 春無有来 | としのはにうめはさけどもうつせみのよのひとわれしはるなかりけり |
1862 | 打細尓 鳥者雖不喫 縄延 守巻欲寸 梅花鴨 | うつたへにとりははまねどなははへてもらまくほしきうめのはなかも |
1863 | 馬並而 高山部乎 白妙丹 令艶色有者 梅花鴨 | うまなめてたかのやまへをしろたへににほはしたるはうめのはなかも |
1864 | 花咲而實者不成登裳長氣所念鴨山振之花 | はなさきてみはならねどもながきけにおもほゆるかもやまぶきのはな |
1865 | 能登河之 水底并尓 光及尓 三笠乃山者 咲来鴨 | のとがはのみなそこさへにてるまでにみかさのやまはさきにけるかも |
1866 | 見雪者 未冬有 然為蟹 春霞立 梅者散乍 | ゆきみればいまだふゆなりしかすがにはるかすみたちうめはちりつつ |
1867 | 去年咲之 久木今開 徒 土哉将堕 見人名四二 | こぞさきしひさぎいまさくいたづらにつちにかおちむみるひとなしに |
1868 | 足日木之 山間照 櫻花 是春雨尓 散去鴨 | あしひきのやまのまてらすさくらばなこのはるさめにちりゆかむかも |
1869 | 打靡 春避来之 山際 最木末乃 咲徃見者 | うちなびくはるさりくらしやまのまのとほきこぬれのさきゆくみれば |
1870 | 春雉鳴 高圓邊丹 櫻花 散流歴 見人毛我母 | きぎしなくたかまとのへにさくらばなちりてながらふみむひともがも |
1871 | 阿保山之 佐宿木花者 今日毛鴨 散乱 見人無二 | あほやまのさくらのはなはけふもかもちりまがふらむみるひとなしに |
1872 | 川津鳴吉野河之瀧上乃馬酔之花會置末勿動 | かはづなくよしののかはのたきのうへのあしびのはなぞはしにおくなゆめ |
1873 | 春雨尓 相争不勝而 吾屋前之 櫻花者 開始尓家里 | はるさめにあらそひかねてわがやどのさくらのはなはさきそめにけり |
1874 | 春雨者 甚勿零 櫻花 未見尓 散巻惜裳 | はるさめはいたくなふりそさくらばないまだみなくにちらまくをしも |
1875 | 春去者 散巻惜 梅花 片時者不咲 含而毛欲得 | はるさればちらまくをしきうめのはなしましはさかずふふみてもがも |
1876 | 見渡者 春日之野邊尓 霞立 開艶者 櫻花鴨 | みわたせばかすがののへにかすみたちさきにほへるはさくらばなかも |
1877 | 何時鴨 此夜乃将明 鴬之 木傳落 梅花将見 | いつしかもこのよのあけむうぐひすのこづたひちらすうめのはなみむ |
春雑歌 詠月 | ||
1878 | 春霞 田菜引今日之 暮三伏一向夜 不穢照良武 高松之野尓 | はるかすみたなびくけふのゆふづくよきよくてるらむたかまつののに |
1879 | 春去者 紀之許能暮之 夕月夜 欝束無裳 山陰尓指天 [一云 春去者 木陰多 暮月夜] | はるさればきのこのくれのゆふづくよおほつかなしもやまかげにして [はるさればこのくれおほみゆふづくよ] |
1880 | 朝霞 春日之晩者 従木間 移歴月乎 何時可将待 | あさかすみはるひのくれはこのまよりうつろふつきをいつとかまたむ |
春雑歌 詠雨 | ||
1881 | 春之雨尓 有来物乎 立隠 妹之家道尓 此日晩都 | はるのあめにありけるものをたちかくりいもがいへぢにこのひくらしつ |
春雑歌 詠河 | ||
1882 | 今徃而 聞物尓毛我 明日香川 春雨零而 瀧津湍音乎 | いまゆきてきくものにもがあすかがははるさめふりてたぎつせのおとを |
春雑歌 詠煙 | ||
1883 | 春日野尓 煙立所見 □嬬等四 春野之菟芽子 採而煮良思文(□=女偏に「感」) | かすがのにけぶりたつみゆをとめらしはるののうはぎつみてにらしも |
春雑歌 野遊 | ||
1884 | 春日野之 淺茅之上尓 念共 遊今日 忘目八方 | かすがののあさぢがうへにおもふどちあそぶけふのひわすらえめやも |
1885 | 春霞 立春日野乎 徃還 吾者相見 弥年之黄土 | はるかすみたつかすがのをゆきかへりわれはあひみむいやとしのはに |
1886 | 春野尓 意将述跡 念共 来之今日者 不晩毛荒粳 | はるののにこころのべむとおもふどちこしけふのひはくれずもあらぬか |
1887 | 百礒城之 大宮人者 暇有也 梅乎挿頭而 此間集有 | ももしきのおほみやひとはいとまあれやうめをかざしてここにつどへる |
春雑歌 詠舊 | ||
1888 | 寒過 暖来者 年月者 雖新有 人者舊去 | ふゆすぎてはるしきたればとしつきはあらたなれどもひとはふりゆく |
1889 | 物皆者 新吉 唯 人者舊之 應宜 | ものみなはあらたしきよしただしくもひとはふりにしよろしかるべし |
春雑歌懽逢 | ||
1890 | 住吉之 里行之鹿歯 春花乃 益希見 君相有香開 | すみのえのさとゆきしかばはるはなのいやめづらしききみにあへるかも |
春雑歌旋頭歌 | ||
1891 | 春日在 三笠乃山尓 月母出奴可母 佐紀山尓 開有櫻之 花乃可見 | かすがなるみかさのやまにつきもいでぬかも さきやまにさけるさくらのはなのみゆべく |
1892 | 白雪之 常敷冬者 過去家良霜 春霞 田菜引野邊之 鴬鳴焉 | しらゆきのつねしくふゆはすぎにけらしも はるかすみたなびくのへのうぐひすなくも |
春雑歌譬喩歌 | ||
1893 | 吾屋前之 毛桃之下尓 月夜指 下心吉 菟楯項者 | わがやどのけもものしたにつくよさししたこころよしうたてこのころ |
春相聞 | ||
1894 | 春山 友鴬 鳴別 眷益間 思御吾 | はるやまのともうぐひすのなきわかれかへりますまもおもほせわれを |
1895 | 冬隠 春開花 手折以 千遍限 戀渡鴨 | ふゆこもりはるさくはなをたをりもちちたびのかぎりこひわたるかも |
1896 | 春山 霧惑在 鴬 我益 物念哉 | はるやまのきりにまとへるうぐひすもわれにまさりてものおもはめや |
1897 | 出見 向岡 本繁 開在花 不成不止 | いでてみるむかひのをかにもとしげくさきたるはなのならずはやまじ |
1898 | 霞發 春永日 戀暮 夜深去 妹相鴨 | かすみたつはるのながひをこひくらしよもふけゆくにいももあはぬかも |
1899 | 春去 先三枝 幸命在 後相 莫戀吾妹 | はるさればまづさきくさのさきくあらばのちにもあはむなこひそわぎも |
1900 | 春去 為垂柳 十緒 妹心 乗在鴨 | はるさればしだりやなぎのとををにもいもはこころにのりにけるかも |
(右柿本朝臣人麻呂歌集出) | ||
春相聞 寄鳥 | ||
1901 | 春之在者 伯勞鳥之草具吉 雖不所見 吾者見将遣 君之當乎婆 | はるさればもずのくさぐきみえずともわれはみやらむきみがあたりをば |
1902 | 容鳥之 間無數鳴 春野之 草根乃繁 戀毛為鴨 | かほどりのまなくしばなくはるのののくさねのしげきこひもするかも |
春相聞 寄花 | ||
1903 | 春去者 宇乃花具多思 吾越之 妹我垣間者 荒来鴨 | はるさればうのはなぐたしわがこえしいもがかきまはあれにけるかも |
1904 | 梅花 咲散苑尓 吾将去 君之使乎 片待香花光 | うめのはなさきちるそのにわれゆかむきみがつかひをかたまちがてり |
1905 | 藤浪咲春野尓蔓葛下夜之戀者久雲在 | ふぢなみのさくはるののにはふくずのしたよしこひばひさしくもあらむ |
1906 | 春野尓 霞棚引 咲花乃 如是成二手尓 不逢君可母 | はるののにかすみたなびきさくはなのかくなるまでにあはぬきみかも |
1907 | 吾瀬子尓吾戀良久者奥山之馬酔花之今盛有 | わがせこにあがこふらくはおくやまのあしびのはなのいまさかりなり |
1908 | 梅花 四垂柳尓 折雜 花尓供養者 君尓相可毛 | うめのはなしだりやなぎにをりまじへはなにそなへばきみにあはむかも |
1909 | 姫部思 咲野尓生 白管自 不知事以 所言之吾背 | をみなへしさきのにおふるしらつつじしらぬこともちいはれしわがせ |
1910 | 梅花 吾者不令落 青丹吉 平城之人 来管見之根 | うめのはなわれはちらさじあをによしならなるひとのきつつみるがね |
1911 | 如是有者 何如殖兼 山振乃 止時喪哭 戀良苦念者 | かくしあらばなにかうゑけむやまぶきのやむときもなくこふらくおもへば |
春相聞 寄霜 | ||
1912 | 春去者 水草之上尓 置霜乃 消乍毛我者 戀度鴨 | はるさればみくさのうへにおくしものけつつもあれはこひわたるかも |
春相聞 寄霞 | ||
1913 | 春霞 山棚引 欝 妹乎相見 後戀毳 | はるかすみやまにたなびきおほほしくいもをあひみてのちこひむかも |
1914 | 春霞 立尓之日従 至今日 吾戀不止 本之繁家波 [一云 片念尓指天] | はるかすみたちにしひよりけふまでにあがこひやまずもとのしげけば [かたもひにして] |
1915 | 左丹頬經 妹乎念登 霞立 春日毛晩尓 戀度可母 | さにつらふいもをおもふとかすみたつはるひもくれにこひわたるかも |
1916 | 霊寸春 吾山之於尓 立霞 雖立雖座 君之随意 | たまきはるわがやまのうへにたつかすみたつともうともきみがまにまに |
1917 | 見渡者 春日之野邊 立霞 見巻之欲 君之容儀香 | みわたせばかすがののへにたつかすみみまくのほしききみがすがたか |
1918 | 戀乍毛 今日者暮都 霞立 明日之春日乎 如何将晩 | こひつつもけふはくらしつかすみたつあすのはるひをいかにくらさむ |
春相聞 寄雨 | ||
1919 | 吾背子尓 戀而為便莫 春雨之 零別不知 出而来可聞 | わがせこにこひてすべなみはるさめのふるわきしらずいでてこしかも |
1920 | 今更 君者伊不徃 春雨之 情乎人之 不知有名國 | いまさらにきみはいゆかじはるさめのこころをひとのしらざらなくに |
1921 | 春雨尓 衣甚 将通哉 七日四零者 七日不来哉 | はるさめにころもはいたくとほらめやなぬかしふらばなぬかこじとや |
1922 | 梅花 令散春雨 多零 客尓也君之 廬入西留良武 | うめのはなちらすはるさめいたくふるたびにやきみがいほりせるらむ |
春相聞 寄草 | ||
1923 | 國栖等之 春菜将採 司馬乃野之 數君麻 思比日 | くにすらがはるなつむらむしまのののしばしばきみをおもふこのころ |
1924 | 春草之 繁吾戀 大海 方徃浪之 千重積 | はるくさのしげきあがこひおほうみのへにゆくなみのちへにつもりぬ |
1925 | 不明 公乎相見而 菅根乃 長春日乎 孤悲渡鴨 | おほほしくきみをあひみてすがのねのながきはるひをこひわたるかも |
春相聞 寄松 | ||
1926 | 梅花 咲而落去者 吾妹乎 将来香不来香跡 吾待乃木曽 | うめのはなさきてちりなばわぎもこをこむかこじかとわがまつのきぞ |
春相聞 寄雲 | ||
1927 | 白檀弓 今春山尓 去雲之 逝哉将別 戀敷物乎 | しらまゆみいまはるやまにゆくくものゆきやわかれむこほしきものを |
春相聞 贈蘰 | ||
1928 | 大夫之 伏居嘆而 造有 四垂柳之 蘰為吾妹 | ますらをのふしゐなげきてつくりたるしだりやなぎのかづらせわぎも |
春相聞 悲別 | ||
1929 | 朝戸出乃 君之儀乎 曲不見而 長春日乎 戀八九良三 | あさとでのきみがすがたをよくみずてながきはるひをこひやくらさむ |
春相聞 問答 | ||
1930 | 春山之 馬酔花之 不悪 公尓波思恵也 所因友好 | はるやまのあしびのはなのあしからぬきみにはしゑやよそるともよし |
1931 | 石上 振乃神杉 神備西 吾八更々 戀尓相尓家留 | いそのかみふるのかむすぎかむびにしわれやさらさらこひにあひにける |
右一首不有春歌而猶以和故載於茲次 | ||
1932 | 狭野方波 實尓雖不成 花耳 開而所見社 戀之名草尓 | さのかたはみにならずともはなのみにさきてみえこそこひのなぐさに |
1933 | 狭野方波 實尓成西乎 今更 春雨零而 花将咲八方 | さのかたはみになりにしをいまさらにはるさめふりてはなさかめやも |
1934 | 梓弓 引津邊有 莫告藻之 花咲及二 不會君毳 | あづさゆみひきつのへなるなのりそのはなさくまでにあはぬきみかも |
1935 | 川上之 伊都藻之花乃 何時々々 来座吾背子 時自異目八方 | かはのへのいつものはなのいつもいつもきませわがせこときじけめやも |
1936 | 春雨之 不止零々 吾戀 人之目尚矣 不令相見 | はるさめのやまずふるふるあがこふるひとのめすらをあひみせなくに |
1937 | 吾妹子尓 戀乍居者 春雨之 彼毛知如 不止零乍 | わぎもこにこひつつをればはるさめのそれもしるごとやまずふりつつ |
1938 | 相不念 妹哉本名 菅根乃 長春日乎 念晩牟 | あひおもはぬいもをやもとなすがのねのながきはるひをおもひくらさむ |
1939 | 春去者 先鳴鳥乃 鴬之 事先立之 君乎之将待 | はるさればまづなくとりのうぐひすのことさきだちしきみをしまたむ |
1940 | 相不念 将有兒故 玉緒 長春日乎 念晩久 | あひおもはずあるらむこゆゑたまのをのながきはるひをおもひくらさく |
夏雑歌 詠鳥 | ||
1941 | 大夫之 出立向 故郷之 神名備山尓 明来者 柘之左枝尓 暮去者 小松之若末尓 里人之 聞戀麻田 山彦乃 答響萬田 霍公鳥 都麻戀為良思 左夜中尓鳴 | ますらをの いでたちむかふ ふるさとの かむなびやまに あけくれば つみのさえだに ゆふされば こまつがうれに さとびとの ききこふるまで やまびこの あひとよむまで ほととぎす つまごひすらし さよなかになく |
反歌 | ||
1942 | 客尓為而 妻戀為良思 霍公鳥 神名備山尓 左夜深而鳴 | たびにしてつまごひすらしほととぎすかむなびやまにさよふけてなく |
右古歌集中出 | ||
1943 | 霍公鳥 汝始音者 於吾欲得 五月之珠尓 交而将貫 | ほととぎすながはつこゑはわれにもがさつきのたまにまじへてぬかむ |
1944 | 朝霞 棚引野邊 足桧木乃 山霍公鳥 何時来将鳴 | あさかすみたなびくのへにあしひきのやまほととぎすいつかきなかむ |
1945 | 旦霞 八重山越而 喚孤鳥 吟八汝来 屋戸母不有九二 | あさかすみやへやまこえてよぶこどりなきやながくるやどもあらなくに |
1946 | 霍公鳥 鳴音聞哉 宇能花乃 開落岳尓 田葛引○嬬 [○女+感] | ほととぎすなくこゑきくやうのはなのさきちるをかにくずひくをとめ |
1947 | 月夜吉 鳴霍公鳥 欲見 吾草取有 見人毛欲得 | つくよよみなくほととぎすみまくほりわれくさとれりみむひともがも |
1948 | 藤浪之 散巻惜 霍公鳥 今城岳○ 鳴而越奈利 ○[口偏+立刀] | ふぢなみのちらまくをしみほととぎすいまきのをかをなきてこゆなり |
1949 | 旦霧 八重山越而 霍公鳥 宇能花邊柄 鳴越来 | あさぎりのやへやまこえてほととぎすうのはなへからなきてこえきぬ |
1950 | 木高者 曽木不殖 霍公鳥 来鳴令響而 戀令益 | こだかくはかつてきうゑじほととぎすきなきとよめてこひまさらしむ |
1951 | 難相 君尓逢有夜 霍公鳥 他時従者 今社鳴目 | あひかたききみにあへるよほととぎすあたしときゆはいまこそなかめ |
1952 | 木晩之 暮闇有尓 [一云 有者] 霍公鳥 何處乎家登 鳴渡良武 | このくれのゆふやみなるに[なれば]ほととぎすいづくをいへとなきわたるらむ |
1953 | 霍公鳥 花橘之 枝尓居而 鳴響者 花波散乍 | ほととぎすはなたちばなのえだにゐてなきとよもせばはなはちりつつ |
1954 | 霍公鳥 今朝之旦明尓 鳴都流波 君将聞可 朝宿疑将寐 | ほととぎすけさのあさけになきつるはきみききけむかあさいかねけむ |
1955 | 慨哉 四去霍公鳥 今社者 音之干蟹 来喧響目 | うれたきやしこほととぎすいまこそはこゑのかるがにきなきとよめめ |
1956 | 今夜乃 於保束無荷 霍公鳥 喧奈流聲之 音乃遥左 | こよひのおほつかなきにほととぎすなくなるこゑのおとのはるけさ |
1957 | 五月山 宇能花月夜 霍公鳥 雖聞不飽 又鳴鴨 | さつきやま うのはなづくよ ほととぎす きけどもあかず またなかぬかも |
1958 | 霍公鳥 来居裳鳴香 吾屋前乃 花橘乃 地二落六見牟 | ほととぎすきゐもなかぬかわがやどのはなたちばなのつちにおちむみむ |
1959 | 霍公鳥 厭時無 菖蒲 蘰将為日 従此鳴度礼 | ほととぎすいとふときなしあやめぐさかづらにせむひこゆなきわたれ |
1960 | 山跡庭 啼而香将来 霍公鳥 汝鳴毎 無人所念 | やまとにはなきてかくらむほととぎすながなくごとになきひとおもほゆ |
1961 | 宇能花乃 散巻惜 霍公鳥 野出山入 来鳴令動 | うのはなのちらまくをしみほととぎすのにいでやまにいりきなきとよもす |
1962 | 橘之 林乎殖 霍公鳥 常尓冬及 住度金 | たちばなのはやしをうゑむほととぎすつねにふゆまですみわたるがね |
1963 | 雨○之 雲尓副而 霍公鳥 指春日而 従此鳴度 [○日+齊] | あまばれのくもにたぐひてほととぎすかすがをさしてこゆなきわたる |
1964 | 物念登 不宿旦開尓 霍公鳥 鳴而左度 為便無左右二 | ものもふといねぬあさけにほととぎすなきてさわたるすべなきまでに |
1965 | 吾衣 於君令服与登 霍公鳥 吾乎領 袖尓来居管 | わがころもきみにきせよとほととぎすわれをうながすそでにきゐつつ |
1966 | 本人 霍公鳥乎八 希将見 今哉汝来 戀乍居者 | もとつひとほととぎすをやめづらしみいまかながくるこひつつをれば |
1967 | 如是許 雨之零尓 霍公鳥 宇乃花山尓 猶香将鳴 | かくばかりあめのふらくにほととぎすうのはなやまになほかなくらむ |
夏雑歌 詠蝉 | ||
1968 | 黙然毛将有 時母鳴奈武 日晩乃 物念時尓 鳴管本名 | もだもあらむときもなかなむひぐらしのものもふときになきつつもとな |
夏雑歌 詠榛 | ||
1969 | 思子之 衣将摺尓 々保比与 嶋之榛原 秋不立友 | おもふこがころもすらむににほひこそしまのはりはらあきたたずとも |
夏雑歌 詠花 | ||
1970 | 風散 花橘○ 袖受而 為君御跡 思鶴鴨 [○口+リットウ] | かぜにちるはなたちばなをそでにうけてきみがみあととしのひつるかも |
1971 | 香細寸 花橘乎 玉貫 将送妹者 三礼而毛有香 | かぐはしきはなたちばなをたまにぬきおくらむいもはみつれてもあるか |
1972 | 霍公鳥 来鳴響 橘之 花散庭乎 将見人八孰 | ほととぎすきなきとよもすたちばなのはなちるにはをみむひとやたれ |
1973 | 吾屋前之 花橘者 落尓家里 悔時尓 相在君鴨 | わがやどのはなたちばなはちりにけりくやしきときにあへるきみかも |
1974 | 見渡者 向野邊乃 石竹之 落巻惜毛 雨莫零行年 | みわたせばむかひののへのなでしこのちらまくをしもあめなふりそね |
1975 | 雨間開而 國見毛将為乎 故郷之 花橘者 散家武可聞 | あままあけてくにみもせむをふるさとのはなたちばなはちりにけむかも |
1976 | 野邊見者 瞿麦之花 咲家里 吾待秋者 近就良思母 | のへみればなでしこのはなさきにけりわがまつあきはちかづくらしも |
1977 | 吾妹子尓 相市乃花波 落不過 今咲有如 有与奴香聞 | わぎもこにあふちのはなはちりすぎずいまさけるごとありこせぬかも |
1978 | 春日野之藤者散去而何物鴨御狩人之折而将挿頭 | かすがののふじはちりにてなにをかもみかりのひとのをりてかざさむ |
1979 | 不時玉乎曾連有宇能花乃五月乎待者可久有 | ときならず(じくの)たまをそぬけるうのはなのさつきをまたばひさしくあるべみ |
夏雑歌 問答歌 | ||
1980 | 宇能花乃 咲落岳従 霍公鳥 鳴而沙度 公者聞津八 | うのはなのさきちるをかゆほととぎすなきてさわたるきみはききつや |
1981 | 聞津八跡 君之問世流 霍公鳥 小竹野尓所沾而 従此鳴綿類 | ききつやときみがとはせるほととぎすしののにぬれてこゆなきわたる |
夏雑歌 譬喩歌 | ||
1982 | 橘 花落里尓 通名者 山霍公鳥 将令響鴨 | たちばなのはなちるさとにかよひなばやまほととぎすとよもさむかも |
夏相聞 寄鳥 | ||
1983 | 春之在者 酢軽成野之 霍公鳥 保等穂跡妹尓 不相来尓家里 | はるさればすがるなすののほととぎすほとほといもにあはずきにけり |
1984 | 五月山 花橘尓 霍公鳥 隠合時尓 逢有公鴨 | さつきやまはなたちばなにほととぎすこもらふときにあへるきみかも |
1985 | 霍公鳥 来鳴五月之 短夜毛 獨宿者 明不得毛 | ほととぎすきなくさつきのみじかよもひとりしぬればあかしかねつも |
夏相聞 寄蝉 | ||
1986 | 日倉足者 時常雖鳴 我戀 手弱女我者 不定哭 | ひぐらしはときとなけどもかたこひにたわやめわれはときわかずなく |
夏相聞 寄草 | ||
1987 | 人言者 夏野乃草之 繁友 妹与吾師 携宿者 | ひとごとはなつののくさのしげくともいもとあれとしたづさはりねば |
1988 | 廼者之 戀乃繁久 夏草乃 苅掃友 生布如 | このころのこひのしげけくなつくさのかりはらへどもおひしくごとし |
1989 | 真田葛延 夏野之繁 如是戀者 信吾命 常有目八面 | まくずはふなつののしげくかくこひばまことわがいのちつねならめやも |
1990 | 吾耳哉 如是戀為良武 垣津旗 丹頬合妹者 如何将有 | あれのみやかくこひすらむかきつはたにつらふいもはいかにかあるらむ |
夏相聞 寄花 | ||
1991 | 片搓尓 絲ヲ曽吾搓 吾背兒之 花橘乎 将貫跡母日手 [ヲ、口偏に立刀] | かたよりにいとをぞわがよるわがせこがはなたちばなをぬかむとおもひて |
1992 | 鴬之 徃来垣根乃 宇能花之 厭事有哉 君之不来座 | うぐひすのかよふかきねのうのはなのうきことあれやきみがきまさぬ |
1993 | 宇能花之 開登波無二 有人尓 戀也将渡 獨念尓指天 | うのはなのさくとはなしにあるひとにこひやわたらむかたもひにして |
1994 | 吾社葉 憎毛有目 吾屋前之 花橘乎 見尓波不来鳥屋 | われこそばにくくもあらめわがやどのはなたちばなをみにはこじとや |
1995 | 霍公鳥 来鳴動 岡邊有 藤浪見者 君者不来登夜 | ほととぎすきなきとよもすをかへなるふぢなみみにはきみはこじとや |
1996 | 隠耳 戀者苦 瞿麦之 花尓開出与 朝旦将見 | こもりのみこふればくるしなでしこのはなにさきでよあさなさなみむ |
1997 | 外耳 見筒戀牟 紅乃 末採花之 色不出友 | よそのみにみつつこひなむくれなゐのすゑつむはなのいろにいでずとも |
夏相聞 寄露 | ||
1998 | 夏草乃 露別衣 不著尓 我衣手乃 干時毛名寸 | なつくさのつゆわけごろもつけなくにわがころもでのふるときもなき |
夏相聞 寄日 | ||
1999 | 六月之 地副割而 照日尓毛 吾袖将乾哉 於君不相四手 | みなづきのつちさへさけててるひにもわがそでひめやきみにあはずして |
秋雑歌 七夕 | ||
2000 | 天漢 水左閇而照 舟竟 舟人 妹等所見寸哉 | あまのがはみづさへにてるふねはててふねなるひとはいもとみえきや |
2001 | 久方之 天漢原丹 奴延鳥之 裏歎座都 乏諸手丹 | ひさかたのあまのかはらにぬえどりのうらなげましつすべなきまでに |
2002 | 吾戀 嬬者知遠 徃船乃 過而應来哉 事毛告火 | あがこひをつまはしれるをゆくふねのすぎてくべしやこともつげなむ |
2003 | 朱羅引 色妙子 數見者 人妻故 吾可戀奴 | あからひくいろぐはしこをしばみればひとづまゆゑにあれこひぬべし |
2004 | 天漢 安渡丹 船浮而 秋立待等 妹告与具 | あまのがはやすのわたりにふねうけてあきたつまつといもにつげこそ |
2005 | 従蒼天 徃来吾等須良 汝故 天漢道 名積而叙来 | おほそらゆかよふわれすらながゆゑにあまのかはぢをなづみてぞこし |
2006 | 八千戈 神自御世 乏□ 人知尓来 告思者 [□女偏に麗] | やちほこのかみのみよよりともしづまひとしりにけりつぎてしおもへば |
2007 | 吾等戀 丹穂面 今夕母可 天漢原 石枕巻 | あがこふるにのほのおもわこよひもかあまのかはらにいしまくらまく |
2008 | 己□ 乏子等者 竟津 荒礒巻而寐 君待難 [□女偏に麗] | おのづまにともしきこらははてむつのありそまきてねむきみまちかてに |
2009 | 天地等 別之時従 自□ 然叙年而在 金待吾者 [□女偏に麗] | あめつちとわかれしときゆおのがつましかぞかれてありあきまつわれは |
2010 | 孫星 嘆須□ 事谷毛 告尓叙来鶴 見者苦弥 [□女偏に麗] | ひこほしはなげかすつまにことだにもつげにぞきつるみればくるしみ |
2011 | 久方 天印等 水無川 隔而置之 神世之恨 | ひさかたのあまつしるしとみなしがはへだてておきしかむよしうらめし |
2012 | 黒玉 宵霧隠 遠鞆 妹傳 速告与 | ぬばたまのよぎりにこもりとほくともいもがつたへははやくつげこそ |
2013 | 汝戀 妹命者 飽足尓 袖振所見都 及雲隠 | ながこふるいものみことはあきだらにそでふるみえつくもがくるまで |
2014 | 夕星毛 徃来天道 及何時鹿 仰而将待 月人壮 | ゆふつづもかよふあまぢをいつまでかあふぎてまたむつきひとをとこ |
2015 | 天漢 已向立而 戀等尓 事谷将告 □言及者 [□女+麗] | あまのがはいむかひたちてこひしらにことだにつげむつまといふまでは |
2016 | 水良玉 五百都集乎 解毛不見 吾者干可太奴 相日待尓 | しらたまのいほつつどひをときもみずわはほしかてぬあはむひまつに |
2017 | 天漢 水陰草 金風 靡見者 時来之 | あまのがはみづかげくさのあきかぜになびかふみればときはきにけり |
2018 | 吾等待之 白芽子開奴 今谷毛 尓寶比尓徃奈 越方人邇 | わがまちしあきはぎさきぬいまだにもにほひにゆかなをちかたひとに |
2033 | 天漢 梶音聞 孫星 与織女 今夕相霜 | あまのがはかぢのおときこゆひこほしとたなばたつめとこよひあふらしも |
(右柿本朝臣人麻呂歌集出) | ||
2039 | 年有而 今香将巻 烏玉之 夜霧隠 遠妻手乎 | としにありていまかまくらむぬばたまのよぎりこもれるとほづまのてを |
2041 | 年之戀 今夜盡而 明日従者 如常哉 吾戀居牟 | としのこひこよひつくしてあすよりはつねのごとくやあがこひをらむ |
2062 | 年丹装 吾舟滂 天河 風者吹友 浪立勿忌 | としによそふわがふねこがむあまのがはかぜはふくともなみたつなゆめ |
2065 | 天河 白浪高 吾戀 公之舟出者 今為下 | あまのがはしらなみたかしあがこふるきみがふなではいましすらしも |
秋雑歌 詠花 | ||
2106 | 此暮 秋風吹奴 白露尓 荒争芽子之 明日将咲見 | このゆふへあきかぜふきぬしらつゆにあらそふはぎのあすさかむみむ |
2111 | 事更尓 衣者不揩 佳人部為 咲野之芽子尓 丹穂日而将居 | ことさらにころもはすらじをみなへしさきののはぎににほひてをらむ |
2120 | 白露尓 荒争金手 咲芽子 散惜兼 雨莫零根 | しらつゆにあらそひかねてさけるはぎちらばをしけむあめなふりそね |
2124 | 秋芽子 戀不盡跡 雖念 思恵也安多良思 又将相八方 | あきはぎにこひつくさじとおもへどもしゑやあたらしまたもあはめやも |
2125 | 秋風者 日異吹奴 高圓之 野邊之秋芽子 散巻惜裳 | あきかぜはひにけにふきぬたかまとののへのあきはぎちらまくをしも |
2127 | 吾待之 秋者来奴 雖然 芽子之花曽毛 未開家類 | わがまちしあきはきたりぬしかれどもはぎのはなぞもいまださかずける |
2129 | 春日野之 芽子落者 朝東 風尓副而 此間尓落来根 | かすがののはぎしちりなばあさごちのかぜにたぐひてここにちりこね |
秋雑歌 詠蟋 | ||
2163 | 影草乃 生有屋外之 暮陰尓 鳴蟋蟀者 雖聞不足可聞 | かげくさのおひたるやどのゆふかげになくこほろぎはきけどあかぬかも |
秋雑歌 詠鳥 | ||
2170 | 妹手呼 取石池之 浪間従 鳥音異鳴 秋過良之 | いもがてをとろしのいけのなみのまゆとりがねけになくあきすぎぬらし |
秋雑歌 詠露 | ||
2172 | 冷芽子丹 置白霧 朝々 珠年曽見流 置白霧 | あきはぎにおけるしらつゆあさなさなたまとしぞみるおけるしらつゆ |
秋雑歌 詠黄葉 | ||
2189 | 大坂乎 吾越来者 二上尓 黄葉流 志具礼零乍 | おほさかをわがこえくればふたかみにもみちばながるしぐれふりつつ |
2192 | 黄葉之丹穂日者繁然鞆妻梨木乎手折可佐寒 | もみちばのにほひはしげししかれどもつまなしのきをたをりかざさむ |
2193 | 露霜乃寒夕之秋風丹黄葉尓来毛妻梨之木者 | つゆしものさむきゆふへのあきかぜにもみちにけりもつまなしのきは |
2200 | 四具礼能雨 無間之零者 真木葉毛 争不勝而 色付尓家里 | しぐれのあめまなくしふればまきのはもあらそひかねていろづきにけり |
2214 | 明日香河 黄葉流 葛木 山之木葉者 今之落疑 | あすかがはもみちばながるかづらきのやまのこのははいましちるらし |
秋雑歌 詠風 | ||
2234 | 戀乍裳 稲葉掻別 家居者 乏不有 秋之暮風 | こひつつもいなばかきわけいへをればともしくもあらずあきのゆふかぜ |
秋雑歌 詠霜 | ||
2242 | 天飛也 鴈之翅乃 覆羽之 何處漏香 霜之零異牟 | あまとぶやかりのつばさのおほひばのいづくもりてかしものふりけむ |
秋相聞 | ||
2246 | 秋野 尾花末 生靡 心妹 依鴨 | あきのののをばながうれのおひなびきこころはいもによりにけるかも |
右柿本朝臣人麻呂之歌集出 | ||
秋相聞 寄水田 | ||
2248 | 住吉之 岸乎田尓墾 蒔稲 乃而及苅 不相公鴨 | すみのえのきしをたにはりまきしいねかくてかるまであはぬきみかも |
秋相聞 寄花 | ||
2289 | 秋芽子之 花野乃為酢寸 穂庭不出 吾戀度 隠嬬波母 | あきはぎのはなののすすきほにはいでずあがこひわたるこもりづまはも |
2290 | 吾屋戸尓 開秋芽子 散過而 實成及丹 於君不相鴨 | わがやどにさきしあきはぎちりすぎてみになるまでにきみにあはぬかも |
冬雑歌 | ||
2319 | 足引 山道不知 白□○ 枝母等乎々尓 雪落者 [或云 枝毛多和々々](□=木偏に可、○=木偏に戈) |
あしひきのやまぢもしらずしらかしのえだもとををにゆきのふれれば[えだもたわたわ] |
右柿本朝臣人麻呂之歌集出也 但件一首 [或本云三方沙弥作] | ||
冬相聞 | ||
2337 | 零雪虚空可消雖恋相依無月経在 | ふるゆきのそらにけぬべくこふれどもあふよしなしにつきそへにける |
2338 | 阿和雪千重零敷恋為来食永我見偲 | あはゆきはちへにふりしけこひしくのけながきあれはみつつしのはむ |
右、柿本朝臣人麻呂之歌集出 | ||
冬相聞 寄露 | ||
2339 | 咲出照梅之下枝尓置露之可消於妹恋頃者 | さきでてるうめのいづえにおくつゆのけぬべくいもにこいふるこのころ |
冬相聞 寄霜 | ||
2340 | 甚毛 夜深勿行 道邊之 湯小竹之於尓 霜降夜焉 | はなはだもよふけてなゆきみちのへのゆささのうへにしものふるよを |
冬相聞 寄雪 | ||
2344 | 一眼見之 人尓戀良久 天霧之 零来雪之 可消所念 | ひとめみしひとにこふらくあまぎらしふりくるゆきのけぬべくおもほゆ |
2346 | 如夢 君乎相見而 天霧之 落来雪之 可消所念 | いめのごときみをあひみてあまぎらしふりくるゆきのけぬべくおもほゆ |
2349 | 天霧相 零来雪之 消友 於君合常 流經度 | あまぎらひふりくるゆきのけなめどもきみにあはむとながらへわたる |
巻十一 | ![]() |
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歌番号 | 古今相聞往来歌類之上 | |
旋頭歌 柿本朝臣人麻呂歌集出 | ||
2360 | 狛錦 紐片叙 床落邇祁留 明夜志 将来得云者 取置待 | こまにしきひものかたへぞとこにおちにける あすのよしきなむといはばとりおきてまたむ |
2366 | 開木代 来背若子 欲云余 相狭丸 吾欲云 開木代来背 | やましろのくせのわくごがほしといふわれ あふさわにわれをほしといふやましろのくぜ |
(右十二首)柿本朝臣人麻呂之歌集出 | ||
旋頭歌 | ||
2368 | 玉垂 小簾之寸鶏吉仁 入通来根 足乳根之 母我問者 風跡将申 | たまだれのをすのすけきにいりかよひこね たらちねのははがとはさばかぜとまをさむ |
(右五首古歌集中出) | ||
正述心緒 | ||
2373 | 人所寐 味宿不寐 早敷八四 公目尚 欲嘆 [或本歌云 公矣思尓 暁来鴨] | ひとのぬるうまいはねずてはしきやしきみがめすらをほりしなげくも [きみをおもふにあけにけるかも] |
2375 | 心 千遍雖念 人不云 吾戀□ 見依鴨 □=女偏に「麗」 | こころにはちへにおもへどひとにいはぬあがこひづまをみむよしもがも |
2378 | 是耳 戀度 玉切 不知命 歳經管 | かくのみしこひやわたらむたまきはるいのちもしらずとしはへにつつ |
2394 | 戀為 死為物 有者 我身千遍 死反 | こひするにしにするものにあらませばあがみはちたびしにかへらまし |
2396 | 中々不見有従相見戀心益念 | なかなかにみざりしよりもあひみてはこひしきこころましておもほゆ |
2397 | 玉桙道不行為有者惻隠此有戀不相 | たまほこのみちゆかずあらばねもころのかかるこひにはあらざらましを |
2412 | 眉根削 鼻鳴紐解 待哉 何時見 念吾 | まよねかきはなひひもとけまつらむかいつかもみむとおもへるわれを |
2413 | 君戀 浦經居 悔 我裏紐 結手徒 | きみにこひうらぶれをればくやしくもわがしたびものゆふていたづらに |
2416 | 我妹戀無乏夢見吾雖念不所寐 | わぎもこにこひすべながりいめにみむとわれはおもへどいねらえなくに |
2418 | 戀事意追不得出行者山川不知来 | こふることなぐさめかねていでてゆけばやまをかはをもしらずきにけり |
寄物陳思 | ||
2431 | 是川 瀬々敷浪 布々 妹心 乗在鴨 | うぢかはのせぜのしきなみしくしくにいもはこころにのりにけるかも |
2433 | 早敷哉 不相子故 徒 是川瀬 裳襴潤 | はしきやしあはぬこゆゑにいたづらにうぢがはのせにもすそぬらしつ |
2434 | 是川水阿和逆纒行水事不反思始為 | うぢかはのみなあわさかまきゆくみづのことかへらずぞおもひそめてし |
2436 | 言出云忌々山川之當都心塞耐在 | ことにいでていはばゆゆしみやまがはのたぎつこころをせかへたりけり |
2438 | 荒礒越外徃波乃外心吾者不思戀而死鞆 | ありそこしほかゆくなみのほかごころわれはおもはじこひてしぬとも |
2445 | 隠沼 従裏戀者 無乏 妹名告 忌物矣 | こもりぬのしたゆこふればすべをなみいもがなのりついむべきものを |
2453 | 香山尓 雲位桁曵 於保々思久 相見子等乎 後戀牟鴨 | かぐやまにくもゐたなびきおほほしくあひみしこらをのちこひむかも |
2454 | 雲間従狭徑月乃於保々思久相見子等乎見因鴨 | くもまよりさわたるつきのおほほしくあひみしこらをみむよしもがも |
2456 | 雲谷灼發意追見乍居及直相 | くもだにもしるくしたたばなぐさめてみつつもをらむただにあふまでに |
2468 | 若月 清不見 雲隠 見欲 宇多手比日 | みかづきのさやにもみえずくもがくりみまくぞほしきうたてこのころ |
2478 | 山菅乱戀耳令為乍不相妹鴨年經乍 | やますげのみだれこひのみせしめつつあはぬいもかもとしはへにつつ |
2482 | 秋柏 潤和川邊 細竹目 人不顏面 公无勝 | あきかしはうるわかはへのしののめのひとにはしのびきみにあへなくに |
2484 | 路邊 壹師花 灼然 人皆知 我戀□[女偏に麗] [或本歌曰 灼然 人知尓家里 継而之念者] | みちのへのいちしのはなのいちしろくひとみなしりぬあがこひづまは [いちしろく ひとしりにけり つぎてしおもへば] |
2485 | 大野 跡状不知 印結 有不得 吾眷 | おほのらにたづきもしらずしめゆひてありかつましじあがこふらくは |
2486 | 水底 生玉藻 打靡 心依 戀比日 | みなそこにおふるたまものうちなびきこころはよりてこふるこのころ |
2506 | 里遠 眷浦經 真鏡 床重不去 夢所見与 | さとどほみこひうらぶれぬまそかがみとこのへさらずいめにみえこそ |
2510 | 梓弓引不許有者此有戀不相 | あづさゆみひきてゆるさずあらませばかかるこひにはあはざらましを |
(以前一百四十九首柿本朝臣人麻呂之歌集出) | ||
正述心緒 | ||
2524 | 奥山之 真木乃板戸乎 押開 思恵也出来根 後者何将為 | おくやまのまきのいたとをおしひらきしゑやいでこねのちはなにせむ |
2536 | 吾背子我 其名不謂跡 玉切 命者棄 忘賜名 | わがせこがそのなのらじとたまきはるいのちはすてつわすれたまふな |
2537 | 凡者 誰将見鴨 黒玉乃 我玄髪乎 靡而将居 | おほかたはたがみむとかもぬばたまのわがくろかみをなびけてをらむ |
2538 | 面忘 何有人之 為物焉 言者為金津 継手志念者 | おもわすれいかなるひとのするものぞわれはしかねつつぎてしおもへば |
2539 | 不相思 人之故可 璞之 年緒長 言戀将居 | あひおもはぬひとのゆゑにかあらたまのとしのをながくあがこひをらむ |
2540 | 凡乃 行者不念 言故 人尓事痛 所云物乎 | おほかたのわざとはもはじわがゆゑにひとにこちたくいはれしものを |
2544 | 相見者 千歳八去流 否乎鴨 我哉然念 待公難尓 | あひみてはちとせやいぬるいなをかもわれやしかおもふきみまちかてに |
2546 | 徊俳 徃箕之里尓 妹乎置而 心空在 土者踏鞆 | たもとほりゆきみのさとにいもをおきてこころそらなりつちはふめども |
2549 | 寤者 相縁毛無 夢谷 間無見君 戀尓可死 | うつつにはあふよしもなしいめにだにまなくみえきみこひにしぬべし |
2558 | 夢耳 見尚幾許 戀吾者 寤見者 益而如何有 | いめのみにみてすらここだこふるあはうつつにみてばましていかにあらむ |
2559 | 對面者面隠流物柄尓継而見巻能欲公毳 | あひみてはおもかくさゆるものからにつぎてみまくのほしききみかも |
2569 | 夜干玉之 妹之黒髪 今夜毛加 吾無床尓 靡而宿良武 | ぬばたまのいもがくろかみこよひもかあがなきとこになびけてぬらむ |
2570 | 花細葦垣越尓直一目相視之兒故千遍嘆津 | はなぐはしあしかきごしにただひとめあひみしこゆゑちたびなげきつ |
2572 | 相見而者戀名草六跡人者雖云見後尓曽毛戀益家類 | あひみてはこひなぐさむとひとはいへどみてのちにぞもこひまさりける |
2573 | 凡 吾之念者 如是許 難御門乎 退出米也母 | おほろかにわれしおもはばかくばかりかたきみかどをまかりいでめやも |
2585 | 面形之忘戸在者小豆鳴男士物屋戀乍将居 | おもかたのわするとあらばあづきなくをとこじものやこひつつをらむ |
2591 | 人事 茂君 玉梓之 使不遣 忘跡思名 | ひとごとをしげみときみにたまづさのつかひもやらずわするとおもふな |
2593 | 夕去者 公来座跡 待夜之 名凝衣今 宿不勝為 | ゆふさればきみきまさむとまちしよのなごりぞいまもいねかてにする |
2597 | 戀死後何為吾命生日社見幕欲為礼 | こひしなむのちはなにせむわがいのちいけるひにこそみまくほりすれ |
2598 | 敷細 枕動而 宿不所寝 物念此夕 急明鴨 | しきたへのまくらうごきていねらえずものもふこよひはやもあけぬかも |
2600 | 夢谷何鴨不所見雖所見吾鴨迷戀茂尓 | いめにだになにかもみえぬみゆれどもわれかもまとふこひのしげきに |
2602 | 何為而忘物吾妹子丹戀益跡所忘莫苦二 | いかにしてわすれむものぞわぎもこにこひはまされどわすらえなくに |
2603 | 遠有跡公衣戀流玉桙乃里人皆尓吾戀八方 | とほくあれどきみにぞこふるたまほこのさとひとみなにあれこひめやも |
2606 | 現毛 夢毛吾者 不思寸 振有公尓 此間将會十羽 | うつつにもいめにもわれはおもはずきふりたるきみにここにあはむとは |
2607 | 黒髪 白髪左右跡 結大王 心一乎 今解目八方 | くろかみのしらかみまでとむすびてしこころひとつをいまとかめやも |
2608 | 心乎之君尓奉跡念有者縦比来者戀乍乎将有 | こころをしきみにまつるとおもへればよしこのころはこひつつをあらむ |
2609 | 念出而 哭者雖泣 灼然 人之可知 嘆為勿謹 | おもひいでてねにはなくともいちしろくひとのしるべくなげかすなゆめ |
2619 | 眉根掻 下言借見 思有尓 去家人乎 相見鶴鴨 | まよねかきしたいふかしみおもへるにいにしへひとをあひみつるかも |
或本歌曰 | ||
2620 | 眉根掻 誰乎香将見跡 思乍 氣長戀之 妹尓相鴨 | まよねかきたれをかみむとおもひつつけながくこひしいもにあへるかも |
一書歌曰 | ||
2621 | 眉根掻 下伊布可之美 念有之 妹之容儀乎 今日見都流香裳 | まよねかきしたいふかしみおもへりしいもがすがたをけふみつるかも |
寄物陳思 | ||
2631 | 紅之 深染衣 色深 染西鹿齒蚊 遺不得鶴 | くれなゐのこそめのころもいろふかくしみにしかばかわすれかねつる |
2633 | 古衣 打棄人者 秋風之 立来時尓 物念物其 | ふるころもうつつるひとはあきかぜのたちくるときにものもふものぞ |
2642 | 里遠 戀和備尓家里 真十鏡 面影不去 夢所見社 | さとどほみこひわびにけりまそかがみおもかげさらずいめにみえこそ |
2653 | 宮材引 泉之追馬喚犬二 立民乃 息時無 戀渡可聞 | みやぎひくいづみのそまにたつたみのやむときもなくこひわたるかも |
2665 | 神名火尓 紐呂寸立而 雖忌 人心者 間守不敢物 | かむなびにひもろきたてていはへどもひとのこころはまもりあへぬもの |
2671 | 千葉破 神之伊垣毛 可越 今者吾名之 惜無 | ちはやぶるかみのいかきもこえぬべしいまはわがなのをしけくもなし |
2676 | 二上尓 隠經月之 雖惜 妹之田本乎 加流類比来 | ふたかみにかくらふつきのをしけどもいもがたもとをかるるこのころ |
2687 | 窓越尓月臨照而足檜乃下風吹夜者公乎之其念 | まどごしにつきおしてりてあしひきのあらしふくよはきみをしそおもふ |
2692 | 笠無登 人尓者言手 雨乍見 留之君我 容儀志所念 | かさなみとひとにはいひてあまつつみとまりしきみがすがたしおもほゆ |
2693 | 妹門 去過不勝都 久方乃 雨毛零奴可 其乎因将為 | いもがかどゆきすぎかねつひさかたのあめもふらぬかそをよしにせむ |
2697 | 朝露之 消安吾身 雖老 又若反 君乎思将待 | あさつゆのけやすきあがみおいぬともまたをちかへりきみをしまたむ |
2710 | 明日香川 明日文将渡 石走 遠心者 不思鴨 | あすかがはあすもわたらむいしはしのとほきこころはおもほえぬかも |
2711 | 飛鳥川 水徃増 弥日異 戀乃増者 在勝申自 | あすかがはみづゆきまさりいやひけにこひのまさらばありかつましじ |
2714 | 愛八師 不相君故 徒尓 此川瀬尓 玉裳沾津 | はしきやしあはぬきみゆゑいたづらにこのかはのせにたまもぬらしつ |
2716 | 青山之 石垣沼間乃 水隠尓 戀哉<将>度 相縁乎無 | あをやまのいはかきぬまのみごもりにこひやわたらむあふよしをなみ |
2720 | 奥山之 木葉隠而 行水乃 音聞従 常不所忘 | おくやまのこのはがくれてゆくみづのおとききしよりつねわすらえず |
2727 | 高山之 石本瀧千 逝水之 音尓者不立 戀而雖死 | たかやまのいはもとたぎちゆくみづのおとにはたてじこひてしぬとも |
2728 | 隠沼乃 下尓戀者 飽不足 人尓語都 可忌物乎 | こもりぬのしたにこふればあきだらずひとにかたりついむべきものを |
2745 | 風緒痛 甚振浪能 間無 吾念君者 相念濫香 | かぜをいたみいたぶるなみのあひだなくあがおもふいもはあひおもふらむか |
2750 | 大海二 立良武浪者 間将有 公二戀等九 止時毛梨 | おほきうみにたつらむなみはあひだあらむきみにこふらくやむときもなし |
2758 | 大船尓 葦荷苅積 四美見似裳 妹心尓 乗来鴨 | おほぶねにあしにかりつみしみみにもいもはこころにのりにけるかも |
2759 | 驛路尓 引舟渡 直乗尓 妹情尓 乗来鴨 | はゆまぢにひきふねわたしただのりにいもはこころにのりにけるかも |
2771 | 奥山之 石本菅乃 根深毛 所思鴨 吾念妻者 | おくやまのいはもとすげのねふかくもおもほゆるかもあがおもひづまは |
2777 | 足引乃 山橘之 色出而 吾戀南雄 八目難為名 | あしひきのやまたちばなのいろにいでてあはこひなむをやめかてにすな |
2779 | 吾背子尓 吾戀良久者 夏草之 苅除十方 生及如 | わがせこにあがこふらくはなつくさのかりそくれどもおひしくごとし |
2793 | 吾妹子之 奈何跡裳吾 不思者 含花之 穂應咲 | わぎもこがなにともわれをおもはねばふふめるはなのほにさきぬべし |
2794 | 隠庭 戀而死鞆 三苑原之 鶏冠草花乃 色二出目八方 | こもりにはこひてしぬともみそのふのからあゐのはなのいろにいでめやも |
2795 | 開花者 雖過時有 我戀流 心中者 止時毛梨 | さくはなはすぐるときあれどわがこふるこころのうちはやむときもなし |
2796 | 山振之尓保敝流妹之翼酢色乃赤裳之為形夢所見管 | やまぶきのにほへるいもがはねずいろのあかものすがたいめにみえつつ |
2798 | 生緒尓 念者苦 玉緒乃 絶天乱名 知者知友 | いきのをにおもへばくるしたまのをのたえてみだれなしらばしるとも |
2799 | 玉緒之 絶而有戀之 乱者 死巻耳其 又毛不相為而 | たまのをのたえたるこひのみだれなばしなまくのみぞまたもあはずして |
2806 | 水泳 玉尓接有 礒貝之 獨戀耳 年者經管 | みづくくるたまにまじれるいそかひのかたこひのみにとしはへにつつ |
問答 | ||
2819 | 眉根掻 鼻火紐解 待八方 何時毛将見跡 戀来吾乎 | まよねかきはなひひもとけまてりやもいつかもみむとこひこしわれを |
右上見柿本朝臣人麻呂之歌中 但以問答故累載於茲也 | ||
2820 | 今日有者 鼻火鼻火之 眉可由見 思之言者 君西在来 | けふなればはなひはなひしまよかゆみおもひしことはきみにしありけり |
右二首 | ||
2821 | 音耳乎 聞而哉戀 犬馬鏡 直目相而 戀巻裳太口 | おとのみをききてやこひむまそかがみただめにあひてこひまくもいたく |
2822 | 此言乎 聞跡平 真十鏡 照月夜裳 闇耳見 | このことをきかむとならしまそかがみてれるつくよもやみのみにみつ |
右二首 | ||
2827 | 浦觸而 物莫念 天雲之 絶多不心 吾念莫國 | うらぶれてものなおもひそあまくものたゆたふこころわがおもはなくに |
2828 | 浦觸而 物者不念 水無瀬川 有而毛水者 逝云物乎 | うらぶれてものはおもはじみなせがはありてもみづはゆくといふものを |
右二首 | ||
2835 | 念人 将来跡知者 八重六倉 覆庭尓 珠布益乎 | おもふひとこむとしりせばやへむぐらおほへるにはにたましかましを |
2836 | 玉敷有 家毛何将為 八重六倉 覆小屋毛 妹与居者 | たましけるいへもなにせむやへむぐらおほへるこやもいもとをりせば |
右二首 | ||
2838 | 紅 花西有者 衣袖尓 染著持而 可行所念 | くれなゐのはなにしあらばころもでにそめつけもちてゆくべくおもほゆ |
譬喩歌寄衣喩思 | ||
2839 | 紅之 深染乃衣乎 下著者 人之見久尓 仁寳比将出鴨 | くれなゐのこそめのきぬをしたにきばひとのみらくににほひいでむかも |
(右二首) | ||
譬喩歌 | ||
2842 | 水沙兒居 渚座船之 夕塩乎 将待従者 吾社益 | みさごゐるすにゐるふねのゆふしほをまつらむよりはわれこそまされ |
右一首寄船喩思 | ||
2845 | 日本之 室原乃毛桃 本繁 言大王物乎 不成不止 | やまとのむろふのけもももとしげくいひてしものをならずはやまじ |
右一首寄菓喩思 | ||
巻十二 | ||
歌番号 | 古今相聞往来歌類之下 | |
正述心緒 | ||
2852 | 我背子之 朝明形 吉不見 今日間 戀暮鴨 | わがせこがあさけのすがたよくみずてけふのあひだをこひくらすかも |
2856 | 忘哉 語 意遣 雖過不過 猶戀 | わするやとものがたりしてこころやりすぐせどすぎずなほこひにけり |
2858 | 後相 吾莫戀 妹雖云 戀間 年經乍 | のちもあはむわれになこひそといもはいへどこふるあひだにとしはへにつつ |
2859 | 不直相有諾夢谷何人事繁 | ただにあはずあるはうべなりいめにだになにしかひとのことのしげけむ |
或本歌曰 [寤者 諾毛不相 夢左倍] | 或本の歌に曰はく、 [うつつには、うべもあはなく、いめにさへ] | |
2861 | 現 直不相 夢谷 相見与 我戀國 | うつつにはただにはあはずいめにだにあふとみえこそあがこふらくに |
寄物陳思 | ||
2862 | 人所見 表結 人不見 裏紐開 戀日太 | ひとのみるうへはむすびてひとのみぬしたひもときてこふるひぞおほき |
2868 | 菅根之 惻隠々々 照日 乾哉吾袖 於妹不相為 | すがのねのねもころごろにてるひにもひめやわがそでいもにあはずして |
2870 | 飛鳥川 高川避紫 越来 信今夜 不明行哉 | あすかがはたかがはよかしこえこしをまことこよひはあけずもいかぬか |
2872 | 礒上 生小松 名惜 人不知 戀渡鴨 | いそのうへにおふるこまつのなををしみひとにしらえずこひわたるかも |
或本歌曰 | ||
2873 | 巌上尓 立小松 名惜 人尓者不云 戀渡鴨 | いはのうへにたてるこまつのなををしみひとにはいはずこひわたるかも |
(右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出) | ||
正述心緒 | ||
2876 | 吾背子乎 且今々々跡 待居尓 夜更深去者 嘆鶴鴨 | わがせこをいまかいまかとまちをるによのふけゆけばなげきつるかも |
2879 | 如是許 将戀物其跡 知者 其夜者由多尓 有益物乎 | かくばかりこひむものぞとしらませばそのよはゆたにあらましものを |
2880 | 戀乍毛 後将相跡 思許増 己命乎 長欲為礼 | こひつつものちもあはむとおもへこそおのがいのちをながくほりすれ |
2881 | 今者吾者 将死与吾妹 不相而 念渡者 安毛無 | いまはあはしなむよわぎもあはずしておもひわたればやすけくもなし |
2882 | 我背子之 将来跡語之 夜者過去 思咲八更々 思許理来目八面 | わがせこがこむとかたりしよはすぎぬしゑやさらさらしこりこめやも |
2886 | 慥 使乎無跡 情乎曽 使尓遣之 夢所見哉 | たしかなるつかひをなみとこころをぞつかひにやりしいめにみえきや |
2887 | 天地尓 小不至 大夫跡 思之吾耶 雄心毛無寸 | あめつちにすこしいたらぬますらをとおもひしわれやをごころもなき |
2893 | 立而居 為便乃田時毛 今者無 妹尓不相而 月之經去者 [或本歌曰 君之目不見而 月之經去者] |
たちてゐてすべのたどきもいまはなしいもにあはずてつきのへぬれば [きみがめみずてつきのへぬれば] |
2894 | 不相而 戀度等母 忘哉 弥日異者 思益等母 | あはずしてこひわたるともわすれめやいやひにけにはおもひますとも |
2896 | 戀管母 今日者在目杼 玉匣 将開明日 如何将暮 | こひつつもけふはあらめどたまくしげあけなむあすをいかにくらさむ |
2898 | 他言者 真言痛 成友 彼所将障 吾尓不有國 | ひとごとはまことこちたくなりぬともそこにさはらむわれにあらなくに |
2899 | 立居 田時毛不知 吾意 天津空有 土者踐鞆 | たちてゐてたどきもしらずあがこころあまつそらなりつちはふめども |
2900 | 世間之 人辞常 所念莫 真曽戀之 不相日乎多美 | よのなかのひとのことばとおもほすなまことぞこひしあはぬひをおほみ |
2901 | 乞如何 吾幾許戀流 吾妹子之 不相跡言流 事毛有莫國 | いでいかにあがここだこふるわぎもこがあはじといへることもあらなくに |
2902 | 夜干玉之 夜乎長鴨 吾背子之 夢尓夢西 所見還良武 | ぬばたまのよをながみかもわがせこがいめにいめにしみえかへるらむ |
2903 | 荒玉之 年緒長 如此戀者 信吾命 全有目八面 | あらたまのとしのをながくかくこひばまことわがいのちまたからめやも |
2904 | 思遣 為便乃田時毛 吾者無 不相數多 月之經去者 | おもひやるすべのたどきもわれはなしあはずてまねくつきのへぬれば |
2905 | 朝去而 暮者来座 君故尓 忌々久毛吾者 歎鶴鴨 | あしたいにてゆふへはきますきみゆゑにゆゆしくもあはなげきつるかも |
2906 | 従聞 物乎念者 我ムネ者 破而摧而 鋒心無 | ききしよりものをおもへばわがむねはわれてくだけてとごころもなし |
2908 | 歌方毛 曰管毛有鹿 吾有者 地庭不落 空消生 | うたがたもいひつつもあるかわれならばつちにはおちずそらにけなまし |
2910 | 獨居而 戀者辛苦 玉手次 不懸将忘 言量欲 | ひとりゐてこふればくるしたまたすきかけずわすれむことはかりもが |
2911 | 中々二 黙然毛有申尾 小豆無 相見始而毛 吾者戀香 | なかなかにもだもあらましをあづきなくあひみそめてもあれはこふるか |
2912 | 吾妹子之 咲眉引 面影 懸而本名 所念可毛 | わぎもこがゑまひまよびきおもかげにかかりてもとなおもほゆるかも |
2913 | 赤根指 日之暮去者 為便乎無三 千遍嘆而 戀乍曽居 | あかねさすひのくれゆけばすべをなみちたびなげきてこひつつぞをる |
2914 | 吾戀者 夜晝不別 百重成 情之念者 甚為便無 | あがこひはよるひるわかずももへなすこころしおもへばいたもすべなし |
2915 | 五十殿寸太 薄寸眉根乎 徒 令掻管 不相人可母 | いとのきてうすきまよねをいたづらにかかしめつつもあはぬひとかも |
2916 | 戀々而 後裳将相常 名草漏 心四無者 五十寸手有目八面 | こひこひてのちもあはむとなぐさもるこころしなくはいきてあらめやも |
2917 | 幾 不生有命乎 戀管曽 吾者氣衝 人尓不所知 | いくばくもいけらじいのちをこひつつぞわれはいきづくひとにしらえず |
2918 | 他國尓 結婚尓行而 大刀之緒毛 未解者 左夜曽明家流 | ひとくにによばひにゆきてたちがをもいまだとかねばさよぞあけにける |
2919 | 大夫之 聡神毛 今者無 戀之奴尓 吾者可死 | ますらをのさときこころもいまはなしこひのやつこにあれはしぬべし |
2920 | 常如是 戀者辛苦 シマシク毛 心安目六 事計為与 | つねかくしこふればくるししましくもこころやすめむことはかりせよ |
2921 | 凡尓 吾之念者 人妻尓 有云妹尓 戀管有米也 | おほろかにわれしおもはばひとづまにありといふいもにこひつつあらめや |
2924 | 人見而 事害目不為 夢尓吾 今夜将至 屋戸閇勿勤 | ひとのみてこととがめせぬいめにわれこよひいたらむやどさすなゆめ |
2925 | 何時左右二 将生命曽 凡者 戀乍不有者 死上有 | いつまでにいかむいのちぞおほかたはこひつつあらずはしなましものを |
2926 | 愛等 念吾妹乎 夢見而 起而探尓 無之不怜 | うつくしとおもふわぎもをいめにみておきてさぐるになきがさぶしさ |
2927 | 妹登曰者 無礼恐 然為蟹 懸巻欲 言尓有鴨 | いもといはばなめしかしこししかすがにかけまくほしきことにあるかも |
2928 | 玉勝間 相登云者 誰有香 相有時左倍 面隠為 | たまかつまあはむといふはたれなるかあへるときさへおもかくしする |
2929 | 寤香妹之来座有夢可毛吾香惑流戀之繁尓 | うつつにかいもがきませるいめにかもわれかまとへるこひのしげきに |
2930 | 大方者 何鴨将戀 言擧不為 妹尓依宿牟 年者近綬 | おほかたはなにかもこひむことあげせずいもによりねむとしはちかきを |
2931 | 二為而 結之紐乎 一為而 吾者解不見 直相及者 | ふたりしてむすびしひもをひとりしてあれはときみじただにあふまでは |
2932 | 終命 此者不念 唯毛 妹尓不相 言乎之曽念 | をへむいのちここはおもはずただしくもいもにあはざることをしぞおもふ |
2933 | 幼婦者 同情 須臾 止時毛無久 将見等曽念 | たわやめはおなじこころにしましくもやむときもなくみてむとぞおもふ |
2934 | 夕去者 於君将相跡 念許増 日之晩毛 □有家礼 | ゆふさらばきみにあはむとおもへこそひのくるらくもうれしかりけれ |
2935 | 直今日毛 君尓波相目跡 人言乎 繁不相而 戀度鴨 | ただけふもきみにはあはめどひとごとをしげみあはずてこひわたるかも |
2939 | 浦觸而 可例西袖ヲ 又巻者 過西戀以 乱今可聞 | うらぶれてかれにしそでをまたまかばすぎにしこひいみだれこむかも |
2942 | 生代尓 戀云物乎 相不見者 戀中尓毛 吾曽苦寸 | いけるよにこひといふものをあひみねばこひのうちにもわれぞくるしき |
2945 | 不相念 公者雖座 肩戀丹 吾者衣戀 君之光儀 | あひおもはずきみはいませどかたこひにあれはぞこふるきみがすがたに |
2946 | 味澤相 目者非不飽 携 不問事毛 苦勞有来 | あぢさはふめはあかざらねたづさはりこととはなくもくるしかりけり |
2947 | 璞之 年緒永 何時左右鹿 我戀将居 壽不知而 | あらたまのとしのをながくいつまでかあがこひをらむいのちしらずて |
2948 | 今者吾者 指南与我兄 戀為者 一夜一日毛 安毛無 | いまはあはしなむよわがせこひすればひとよひとひもやすけくもなし |
2949 | 白細布之 袖折反 戀者香 妹之容儀乃 夢二四三湯流 | しろたへのそでをりかへしこふればかいもがすがたのいめにしみゆる |
2951 | 戀云者 薄事有 雖然 我者不忘 戀者死十万 | こひといへばうすきことなりしかれどもわれはわすれじこひはしぬとも |
2952 | 中々二 死者安六 出日之 入別不知 吾四九流四毛 | なかなかにしなばやすけむいづるひのいるわきしらぬわれしくるしも |
2953 | 念八流 跡状毛我者 今者無 妹二不相而 年之經行者 | おもひやるたどきもわれはいまはなしいもにあはずてとしのへぬれば |
2955 | 我命之 長欲家口 偽乎 好為人乎 執許乎 | わがいのちのながくほしけくいつはりをよくするひとをとらふばかりを |
2956 | 人言 繁跡妹 不相 情裏 戀比日 | ひとごとをしげみといもにあはずしてこころのうちにこふるこのころ |
2957 | 玉梓之 君之使乎 待之夜乃 名凝其今毛 不宿夜乃大寸 | たまづさのきみがつかひをまちしよのなごりぞいまもいねぬよのおほき |
2958 | 玉桙之 道尓行相而 外目耳毛 見者吉子乎 何時鹿将待 | たまほこのみちにゆきあひてよそめにもみればよきこをいつとかまたむ |
2959 | 念西 餘西鹿齒 為便乎無美 吾者五十日手寸 應忌鬼尾 | おもひにしあまりにしかばすべをなみわれはいひてきいむべきものを |
2960 | 明日者 其門将去 出而見与 戀有容儀 數知兼 | あすのひはそのかどゆかむいでてみよこひたるすがたあまたしるけむ |
2961 | 得田價異 心欝悒 事計 吉為吾兄子 相有時谷 | うたてけにこころいぶせしことはかりよくせわがせこあへるときだに |
2962 | 吾妹子之 夜戸出乃光儀 見而之従 情空有 地者雖踐 | わぎもこがよとでのすがたみてしよりこころそらなりつちはふめども |
2963 | 海石榴市之 八十衢尓 立平之 結紐乎 解巻惜毛 | つばきちのやそのちまたにたちならしむすびしひもをとかまくをしも |
2964 | 吾齡之 衰去者 白細布之 袖乃狎尓思 君乎母准其念 | わがいのちのおとろへぬればしろたへのそでのなれにしきみをしぞおもふ |
2965 | 恋君吾哭涕白妙袖兼所潰為便母奈之 | きみにこひあがなくなみだしろたへのそでさへひちてせむすべもなし |
2966 | 従今者 不相跡為也 白妙之 我衣袖之 干時毛奈吉 | いまよりはあはじとすれやしろたへのわがころもでのふるときもなき |
2967 | 夢可登 情班 月數多 干西君之 事之通者 | いめかとこころまどひぬつきまねくかれにしきみがことのかよへば |
2968 | 未玉之 年月兼而 烏玉乃 夢尓所見 君之容儀者 | あらたまのとしつきかねてぬばたまのいめにみえけりきみがすがたは |
2969 | 従今者 雖戀妹尓 将相哉母 床邊不離 夢尓所見乞 | いまよりはこふともいもにあはめやもとこのへさらずいめにみえこそ |
2970 | 人見而 言害目不為 夢谷 不止見与 我戀将息 或本歌頭云 人目多 直者不相 | ひとのみてこととがめせぬいめにだにやまずみえこそあがこひやまむ [ひとめおほみ ただにはあはず] |
2971 | 現者 言絶有 夢谷 嗣而所見与 直相左右二 | うつつにはこともたえたりいめにだにつぎてみえこそただにあふまでに |
2972 | 虚蝉之 宇都思情毛 吾者無 妹乎不相見而 年之經去者 | うつせみのうつしごころもわれはなしいもをあひみずてとしのへぬれば |
2973 | 虚蝉之 常辞登 雖念 継而之聞者 心遮焉 | うつせみのつねのことばとおもへどもつぎてしきけばこころまどひぬ |
2974 | 白細之 袖不數而宿 烏玉之 今夜者早毛 明者将開 | しろたへのそでかれてぬるぬばたまのこよひははやもあけばあけなむ |
2975 | 白細之 手本寛久 人之宿 味宿者不寐哉 戀将渡 | しろたへのたもとゆたけくひとのぬるうまいはねずやこひわたりなむ |
寄物陳思 | ||
2978 | 紅 薄染衣 淺尓 相見之人尓 戀比日可聞 | くれなゐのうすそめころもあさらかにあひみしひとにこふるころかも |
3014 | 霊合者 相宿物乎 小山田之 鹿猪田禁如 母之守為裳 [一云 母之守之師] | たまあへばあひぬるものををやまだのししだもるごとははしもらすも [ははがもらしし] |
3017 | 夕月夜 五更闇之 不明 見之人故 戀渡鴨 | ゆふづくよあかときやみのおほほしくみしひとゆゑにこひわたるかも |
3037 | 隠沼乃下従戀餘白浪之灼然出人之可知 | こもりぬのしたゆこひあまりしらなみのいちしろくいでぬひとのしるべく |
3056 | 朝日指 春日能小野尓 置露乃 可消吾身 惜雲無 | あさひさすかすがのをのにおくつゆのけぬべきあがみをしけくもなし |
3057 | 露霜乃 消安我身 雖老 又若反 君乎思将待 | つゆしものけやすきあがみおいぬともまたをちかへりきみをしまたむ |
3068 | 相不念 有物乎鴨 菅根乃 懃懇 吾念有良武 | あひおもはずあるものをかもすがのねのねもころごろにわがもへるらむ |
3089 | 如此為而曽人之死云藤浪乃直一目耳見之人故尓 | かくしてぞひとはしぬといふふぢなみのただひとめのみみしひとゆゑに |
3091 | 三佐呉集 荒礒尓生流 勿謂藻乃 吉名者不告 父母者知鞆 | みさごゐるありそにおふるなのりそのよしなはのらじおやはしるとも |
3107 | 小竹之上尓 来居而鳴鳥 目乎安見 人妻ユヱ尓 吾戀二来 | しののうへにきゐてなくとりめをやすみひとづまゆゑにあれこひにけり |
3111 | 左檜隈檜隈河尓駐馬馬尓水令飲吾外将見 | さひのくまひのくまがはにうまとどめうまにみづかへわれよそにみむ |
問答歌 | ||
3115 | 紫者 灰指物曽 海石榴市之 八十街尓 相兒哉誰 | むらさきははひさすものぞつばきちのやそのちまたにあへるこやたれ |
3116 | 足千根乃 母之召名乎 雖白 路行人乎 孰跡知而可 | たらちねのははがよぶなをまをさめどみちゆくひとをたれとしりてか |
右二首 | ||
3119 | 人目太 直不相而 盖雲 吾戀死者 誰名将有裳 | ひとめおほみただにあはずてけだしくもあがこひしなばたがなならむも |
3120 | 相見 欲為者 従君毛 吾曽益而 伊布可思美為也 | あひみまくほしきがためはきみよりもわれぞまさりていふかしみする |
右二首 | ||
3129 | 氣緒尓 言氣築之 妹尚乎 人妻有跡 聞者悲毛 | いきのをにわがいきづきしいもすらをひとづまなりときけばかなしも |
3130 | 我故尓 痛勿和備曽 後遂 不相登要之 言毛不有尓 | わがゆゑにいたくなわびそのちつひにあはじといひしこともあらなくに |
右二首 | ||
3139 | 久堅乃 雨零日乎 我門尓 蓑笠不蒙而 来有人哉誰 | ひさかたのあめのふるひをわがかどにみのかさきずてけるひとやたれ |
3140 | 纒向之 病足乃山尓 雲居乍 雨者雖零 所沾乍焉来 | まきむくのあなしのやまにくもゐつつあめはふれどもぬれつつぞこし |
右二首 | ||
羇旅發思 | ||
3163 | 梓弓 末者不知杼 愛美 君尓副而 山道越来奴 | あづさゆみすゑはしらねどうるはしみきみにたぐひてやまぢこえきぬ |
3180 | 吾妹兒乎 外耳哉将見 越懈乃 子難懈乃 嶋楢名君 | わぎもこをよそのみやみむこしのうみのこがたのうみのしまならなくに |
3188 | 射去為 海部之楫音 湯按干 妹心 乗来鴨 | いざりするあまのかぢおとゆくらかにいもはこころにのりにけるかも |
悲別歌 | ||
3201 | 立名付 青垣山之 隔者 數君乎 言不問可聞 | たたなづくあをかきやまのへなりなばしばしばきみをこととはじかも |
3202 | 朝霞 蒙山乎 越而去者 吾波将戀奈 至于相日 | あさがすみたなびくやまをこえていなばわれはこひむなあはむひまでに |
3203 | 足桧乃 山者百重 雖隠 妹者不忘 直相左右二 [一云 雖隠 君乎思苦 止時毛無] | あしひきのやまはももへにかくすともいもはわすれじただにあふまでに [かくせどもきみをおもはくやむときもなし] |
3204 | 雲居有 海山超而 伊徃名者 吾者将戀名 後者相宿友 | くもゐなるうみやまこえていゆきなばわれはこひむなのちはあひぬとも |
3205 | 不欲恵八師 不戀登為杼 木綿間山 越去之公之 所念良國 | よしゑやしこひじとすれどゆふまやまこえにしきみがおもほゆらくに |
3213 | 海之底 奥者恐 礒廻従 水手運徃為 月者雖經過 | わたのそこおきはかしこしいそみよりこぎたみいませつきはへぬとも |
3214 | 飼飯乃浦尓 依流白浪 敷布二 妹之容儀者 所念香毛 | けひのうらによするしらなみしくしくにいもがすがたはおもほゆるかも |
3215 | 時風 吹飯乃濱尓 出居乍 贖命者 妹之為社 | ときつかぜふけひのはまにいでゐつつあかふいのちはいもがためこそ |
3216 | 柔田津尓 舟乗将為跡 聞之苗 如何毛君之 所見不来将有 | にきたつにふなのりせむとききしなへなにぞもきみがみえこずあるらむ |
3217 | 三沙呉居 渚尓居舟之 榜出去者 裏戀監 後者會宿友 | みさごゐるすにゐるふねのこぎでなばうらごひしけむのちはあひぬとも |
3224 | 足桧木乃 片山雉 立徃牟 君尓後而 打四鶏目八方 | あしひきのかたやまきぎしたちゆかむきみにおくれてうつしけめやも |
巻十三 | ||
歌番号 | ||
雑歌 | ||
3239 | 天雲之 影塞所見 隠来矣 長谷之河者 浦無蚊 船之依不来 礒無蚊 海部之釣不為 吉咲八師 浦者無友 吉畫矢寺 礒者無友 奥津浪 諍榜入来 白水郎之釣船 | あまくもの かげさへみゆる こもりくの はつせのかはは うらなみか ふねのよりこぬ いそなみか あまのつりせぬ よしゑやし うらはなくとも よしゑやし いそはなくとも おきつなみ きほひこぎりこ あまのつりぶね |
反歌 | ||
3240 | 沙邪礼浪 浮而流 長谷河 可依礒之 無蚊不怜也 | さざれなみうきてながるるはつせがはよるべきいそのなきがさぶしさ |
右二首 | ||
相聞 | ||
3264 | 蜻嶋 倭之國者 神柄跡 言擧不為國 雖然 吾者事上為 天地之 神文甚 吾念 心不知哉 徃影乃 月文經徃者 玉限 日文累 念戸鴨 胸不安 戀烈鴨 心痛 末逐尓 君丹不會者 吾命乃 生極 戀乍文 吾者将度 犬馬鏡 正目君乎 相見天者社 吾戀八鬼目 | あきづしま やまとのくには かむからと ことあげせぬくに しかれども われはことあげす あめつちの かみもはなはだ わがおもふ こころしらずや ゆくかげの つきもへゆけば たまかぎる ひもかさなりて おもへかも むねのくるしき こふれかも こころのいたき すゑつひに きみにあはずは わがいのちの いけらむきはみ こひつつも われはわたらむ まそかがみ ただめにきみを あひみてばこそ あがこひやまめ |
反歌 | ||
3265 | 大舟能 思憑 君故尓 盡心者 惜雲梨 | おほぶねのおもひたのめるきみゆゑにつくすこころはをしけくもなし |
3266 | 久堅之 王都乎置而 草枕 羈徃君乎 何時可将待 | ひさかたのみやこをおきてくさまくらたびゆくきみをいつとかまたむ |
相聞 | ||
反歌 | ||
3275 | 思遣 為便乃田付毛 今者無 於君不相而 年之歴去者 | おもひやるすべのたづきもいまはなしきみにあはずてとしのへぬれば |
反歌 | ||
3276 | ゐ垣 久時従 戀為者 吾帶緩 朝夕毎 | みづかきのひさしきときゆこひすればわがおびゆるふあさよひごとに |
右三首 | ||
3280 | 春去者 花咲乎呼里 秋付者 丹之穂尓黄色 味酒乎 神名火山之 帶丹為留 明日香之河乃 速瀬尓 生玉藻之 打靡 情者因而 朝露之 消者可消 戀久毛 知久毛相 隠都麻鴨 | はるされば はなさきををり あきづけば にのほにもみつ うまさけを かむなびやまの おびにせる あすかのかはの はやきせに おふるたまもの うちなびき こころはよりて あさつゆの けなばけぬべく こひしくも しるくもあへる こもりづまかも |
反歌 | ||
3281 | 明日香河 瀬湍之珠藻之 打靡 情者妹尓 因来鴨 | あすかがはせぜのたまものうちなびきこころはいもによりにけるかも |
右二首 | ||
3282 | 三諸之 神奈備山従 登能陰 雨者落来奴 雨霧相 風左倍吹奴 大口乃 真神之原従 思管 還尓之人 家尓到伎也 | みもろの かむなびやまゆ とのぐもり あめはふりきぬ あまぎらひ かぜさへふきぬ おほくちの まかみのはらゆ おもひつつ かへりにしひと いへにいたりきや |
反歌 | ||
3283 | 還尓之 人乎念等 野干玉之 彼夜者吾毛 宿毛寐金手寸 | かへりにしひとをおもふとぬばたまのそのよはわれもいもねかねてき |
右二首 | ||
3284 | 刺将焼 小屋之四忌屋尓 掻将棄 破薦乎敷而 所挌将折 鬼之四忌手乎 指易而 将宿君故 赤根刺 晝者終尓 野干玉之 夜者須柄尓 此床乃 比師跡鳴左右 嘆鶴鴨 | さしやかむ こやのしこやに かきうてむ やれごもをしきて うちをらむ しこのしこてを さしかへて ぬらむきみゆゑ あかねさす ひるはしみらに ぬばたまの よるはすがらに このとこの ひしとなるまで なげきつるかも |
反歌 | ||
3285 | 我情 焼毛吾有 愛八師 君尓戀毛 我之心柄 | わがこころやくもわれなりはしきやしきみにこふるもわがこころから |
右二首 | ||
反歌 | ||
3287 | 二無 戀乎思為者 常帶乎 三重可結 我身者成 | ふたつなきこひをしすればつねのおびをみへむすぶべくあがみはなりぬ |
右二首 | ||
反歌 | ||
3299 | 足千根乃 母尓毛不謂 L有之 心者縦 公之随意 | たらちねのははにもいはずつつめりしこころはよしゑきみがまにまに |
(右五首) | ||
3313 | 見渡尓 妹等者立志 是方尓 吾者立而 思虚 不安國 嘆虚 不安國 左丹漆之 小舟毛鴨 玉纒之 小楫毛鴨 榜渡乍毛 相語妻遠 | みわたしに いもらはたたし このかたに われはたちて おもふそら やすけなくに なげくそら やすけなくに さにぬりの をぶねもがも たままきの をかぢもがも こぎわたりつつも かたらふつまを |
或本歌頭句云/ 己母理久乃 波都世乃加波乃 乎知可多尓 伊母良波多々志 己乃加多尓 和礼波多知弖 |
こもりくの はつせのかはの をちかたに いもらはたたし このかたに われはたちて | |
右一首 | ||
3317 | 里人之 吾丹告樂 汝戀 愛妻者 黄葉之 散乱有 神名火之 此山邊柄 [或本云 彼山邊] 烏玉之 黒馬尓乗而 河瀬乎 七湍渡而 裏觸而 妻者會登 人曽告鶴 | さとびとの あれにつぐらく ながこふる うつくしづまは もみちばの ちりまがひたる かむなびの このやまへから [そのやまへ] ぬばたまの くろまにのりて かはのせを ななせわたりて うらぶれて つまはあひきと ひとそつげつる |
反歌 | ||
3318 | 不聞而 黙然有益乎 何如文 公之正香乎 人之告鶴 | きかずしてもだもあらましをなにしかもきみがただかをひとのつげつる |
右二首 | ||
問答 | ||
3328 | 次嶺經 山背道乎 人都末乃 馬従行尓 己夫之 歩従行者 毎見 哭耳之所泣 曽許思尓 心之痛之 垂乳根乃 母之形見跡 吾持有 真十見鏡尓 蜻領巾 負並持而 馬替吾背 | つぎねふ やましろぢを ひとづまの うまよりゆくに おのづまし かちよりゆけば みるごとに ねのみしなかゆ そこおもふに こころしいたし たらちねの ははがかたみと わがもてる まそみかがみに あきづひれ おひなめもちて うまかへわがせ |
反歌 | ||
3329 | 泉川 渡瀬深見 吾世古我 旅行衣 蒙沾鴨 | いづみがはわたりぜふかみわがせこがたびゆきごろもぬれひたむかも |
或本反歌曰 | ||
3330 | 清鏡 雖持吾者 記無 君之歩行 名積去見者 | まそかがみもてれどわれはしるしなしきみがかちよりなづみゆくみれば |
3331 | 馬替者 妹歩行将有 縦恵八子 石者雖履 吾二行 | うまかはばいもかちならむよしゑやしいしはふむともあはふたりゆかむ |
右四首 | ||
挽歌 | ||
3340 | 礒城嶋之 日本國尓 何方 御念食可 津礼毛無 城上宮尓 大殿乎 都可倍奉而 殿隠 々座者 朝者 召而使 夕者 召而使 遣之 舎人之子等者 行鳥之 群而待 有雖待 不召賜者 劔刀 磨之心乎 天雲尓 念散之 展轉 土打哭杼母 飽不足可聞 | しきしまの やまとのくにに いかさまに おもほしめせか つれもなき きのへのみやに おほとのを つかへまつりて とのごもり こもりいませば あしたには めしてつかひ ゆふへには めしてつかひ つかはしし とねりのこらは ゆくとりの むらがりてまち ありまてど めしたまはねば つるぎたち とぎしこころを あまくもに おもひはぶらし こいまろび ひづちなけども あきだらぬかも |
右一首 | ||
巻十四 | ||
歌番号 | ||
東歌 | ||
3362 | 奈都素妣久 宇奈加美我多能 於伎都渚尓 布袮波等杼米牟 佐欲布氣尓家里 | なつそびくうなかみがたのおきつすにふねはとどめむさよふけにけり |
右一首上総国歌 | ||
3363 | 可豆思加乃 麻萬能宇良未乎 許具布祢能 布奈妣等佐和久 奈美多都良思母 | かづしかのままのうらみをこぐふねのふなびとさわくなみたつらしも |
右一首下総国歌 | ||
3364 | 筑波祢乃尓比具波麻欲能伎奴波安礼杼伎美我美家思志安夜尓伎保思母 | つくはねのにひぐはまよのきぬはあれどきみがみけししあやにきほしも |
3365 | 筑波祢尓由伎可毛布良留伊奈乎可母加奈思吉児呂我努保佐流可母 | つくはねにゆきかもふらるいなをかもかなしきころがにのほさるかも |
東歌 右二首、常陸国 | ||
3366 | 信濃奈流 須我能安良能尓 保登等藝須 奈久許恵伎氣婆 登伎須疑尓家里 | しなのなるすがのあらのにほととぎすなくこゑきけばときすぎにけり |
右一首信濃国歌 | ||
東歌相聞 | ||
3367 | 阿良多麻能 伎倍乃波也之尓 奈乎多弖天 由伎可都麻思自 移乎佐伎太多尼 | あらたまのきへのはやしになをたててゆきかつましじいをさきだたね |
3368 | 伎倍比等乃 萬太良夫須麻尓 和多佐波太 伊利奈麻之母乃 伊毛我乎杼許尓 | きへひとのまだらぶすまにわたさはだいりなましものいもがをどこに |
右二首遠江国歌 | ||
3369 | 安麻乃波良 不自能之婆夜麻 己能久礼能 等伎由都利奈波 阿波受可母安良牟 | あまのはらふじのしばやまこのくれのときゆつりなばあはずかもあらむ |
3370 | 不盡能祢乃 伊夜等保奈我伎 夜麻治乎毛 伊母我理登倍婆 氣尓餘婆受吉奴 | ふじのねのいやとほながきやまぢをもいもがりとへばけによばずきぬ |
3371 | 可須美為流 布時能夜麻備尓 和我伎奈婆 伊豆知武吉弖加 伊毛我奈氣可牟 | かすみゐるふじのやまびにわがきなばいづちむきてかいもがなげかむ |
3372 | 佐奴良久波 多麻乃緒婆可里 古布良久波 布自能多可祢乃 奈流佐波能其登 | さぬらくはたまのをばかりこふらくはふじのたかねのなるさはのごと |
或本歌曰 | ||
3373 | 麻可奈思美 奴良久波思家良久 佐奈良久波 伊豆能多可祢能 奈流佐波奈須与 | まかなしみぬらくはしけらくさならくはいづのたかねのなるさはなすよ |
一本歌曰 | ||
3374 | 阿敝良久波 多麻能乎思家也 古布良久波 布自乃多可祢尓 布流由伎奈須毛 | あへらくはたまのをしけやこふらくはふじのたかねにふるゆきなすも |
3375 | 駿河能宇美 於思敝尓於布流 波麻都豆良 伊麻思乎多能美 波播尓多我比奴 [一云 於夜尓多我比奴] |
するがのうみおしへにおふるはまつづらいましをたのみははにたがひぬ [おやにたがひぬ] |
右五首駿河国歌 | ||
3376 | 伊豆乃宇美尓 多都思良奈美能 安里都追毛 都藝奈牟毛能乎 美太礼志米梅楊 | いづのうみにたつしらなみのありつつもつぎなむものをみだれしめめや |
或本歌曰 | ||
之良久毛能 多延都追母 都我牟等母倍也 美太礼曽米家武 | しらくものたえつつもつがむともへやみだれそめけむ | |
右一首伊豆国歌 | ||
3377 | 安思我良能 乎弖毛許乃母尓 佐須和奈乃 可奈流麻之豆美 許呂安礼比毛等久 | あしがらのをてもこのもにさすわなのかなるましづみころあれひもとく |
右十二首相模国歌 | ||
3378 | 相模祢乃乎美祢見所久思和須礼久流伊毛我名欲妣弖吾乎祢之奈久奈 | さがむねのをみねみそくしわすれくるいもがなよびてあをねしなくな |
3379 | 武蔵祢能乎美祢見可久思和須礼遊久伎美我名可氣弖安乎祢思奈久流 | むざしねのをみねみかくしわすれゆくきみがなかけてあをねしなくる |
3380 | 和我世古乎 夜麻登敝夜利弖 麻都之太須 安思我良夜麻乃 須疑乃木能末可 | わがせこをやまとへやりてまつしだすあしがらやまのすぎのこのまか |
3382 | 可麻久良乃 美胡之能佐吉能 伊波久叡乃 伎美我久由倍伎 己許呂波母多自 | かまくらのみごしのさきのいはくえのきみがくゆべきこころはもたじ |
3410 | 筑波祢乃 伊波毛等杼呂尓 於都流美豆 代尓毛多由良尓 和我於毛波奈久尓 | つくはねのいはもとどろにおつるみづよにもたゆらにわがおもはなくに |
東歌 相聞 | ||
3416 | 比等未奈乃 許等波多由登毛 波尓思奈能 伊思井乃手兒我 許登奈多延曽祢 | ひとみなのことはたゆともはにしなのいしゐのてごがことなたえそね |
3417 | 信濃道者 伊麻能波里美知 可里婆祢尓 安思布麻之奈牟 久都波氣和我世 | しなぬぢはいまのはりみちかりばねにあしふましなむくつはけわがせ |
3418 | 信濃奈流 知具麻能河泊能 左射礼思母 伎弥之布美弖婆 多麻等比呂波牟 | しなぬなるちぐまのかはのさざれしもきみしふみてばたまとひろはむ |
3419 | 中麻奈尓 宇伎乎流布祢能 許藝弖奈婆 安布許等可多思 家布尓思安良受波 | なかまなにうきをるふねのこぎでなばあふことかたしけふにしあらずは |
右四首信濃國歌 | ||
3421 | 安我古非波 麻左香毛可奈思 久佐麻久良 多胡能伊利野乃 於久母可奈思母 | あがこひはまさかもかなしくさまくらたごのいりののおくもかなしも |
3425 | 可美都氣野 左野乃九久多知 乎里波夜志 安礼波麻多牟恵 許登之許受登母 | かみつけのさののくくたちをりはやしあれはまたむゑことしこずとも |
3432 | 刀祢河泊乃 可波世毛思良受 多太和多里 奈美尓安布能須 安敝流伎美可母 | とねがはのかはせもしらずただわたりなみにあふのすあへるきみかも |
3439 | 可美都氣努 佐野乃布奈波之 登里波奈之 於也波左久礼騰 和波左可流賀倍 | かみつけのさののふなはしとりはなしおやはさくれどわはさかるがへ |
東歌 相聞 | ||
3478 | 伊祢都氣波 可加流安我手乎 許余比毛可 等能乃和久胡我 等里弖奈氣可武 | いねつけばかかるあがてをこよひもかとののわくごがとりてなげかむ |
3489 | 安比見弖波 千等世夜伊奴流 伊奈乎加<母> 安礼也思加毛布 伎美末知我弖尓 [柿本朝臣人麻呂歌集出也] |
あひみてはちとせやいぬるいなをかもあれやしかもふきみまちがてに |
3494 | 古非都追母 乎良牟等須礼杼 遊布麻夜万 可久礼之伎美乎 於母比可祢都母 | こひつつもをらむとすれどゆふまやまかくれしきみをおもひかねつも |
3506 | 可奈思伊毛乎 由豆加奈倍麻伎 母許呂乎乃 許登等思伊波婆 伊夜可多麻斯尓 | かなしいもをゆづかなべまきもころをのこととしいはばいやかたましに |
3511 | 楊奈疑許曽 伎礼波伴要須礼 余能比等乃 古非尓思奈武乎 伊可尓世余等曽 | やなぎこそきればはえすれよのひとのこひにしなむをいかにせよとぞ |
3513 | 於曽波夜母 奈乎許曽麻多賣 牟可都乎能 四比乃故夜提能 安比波多我波自 | おそはやもなをこそまためむかつをのしひのこやでのあひはたがはじ |
3514 | 於曽波夜毛 伎美乎思麻多武 牟可都乎能 思比乃佐要太能 登吉波須具登母 | おそはやもきみをしまたむむかつをのしひのさえだのときはすぐとも |
3540 |
奈我波伴尓 己良例安波由久 安乎久毛能 伊弖来和伎母兒 安必見而由可武 | ながははにこられあはゆくあをくものいでこわぎもこあひみてゆかむ |
3561 | 安受乃宇敝尓 古馬乎都奈伎弖 安夜抱可等 比等豆麻古呂乎 伊吉尓和我須流 | あずのうへにこまをつなぎてあやほかどひとづまころをいきにわがする |
3562 | 左和多里能 手兒尓伊由伎安比 安可胡麻我 安我伎乎波夜未 許等登波受伎奴 | さわたりのてごにいゆきあひあかごまがあがきをはやみこととはずきぬ |
3563 | 安受倍可良 古麻能由胡能須 安也波刀文 比登豆麻古呂乎 麻由可西良布母 | あずへからこまのゆごのすあやはともひとづまころをまゆかせらふも |
3564 | 佐射礼伊思尓古馬乎波佐世弖己許呂伊多美安我毛布伊毛我伊敝能安多里可聞 | さざれいしにこまをはさせてこころいたみあがもふいもがいへのあたりかも |
3573 | 阿遅可麻能 可多尓左久奈美 比良湍尓母 比毛登久毛能可 加奈思家乎於吉弖 | あぢかまのかたにさくなみひらせにもひもとくものかかなしけをおきて |
3580 | 安波受之弖 由加婆乎思家牟 麻久良我能 許賀己具布祢尓 伎美毛安波奴可毛 | あはずしてゆかばをしけむまくらがのこがこぐふねにきみもあはぬかも |
東歌 譬喩歌 | ||
3594 | 安杼毛敝可 阿自久麻夜末乃 由豆流波乃 布敷麻留等伎尓 可是布可受可母 | あどもへかあじくまやまのゆづるはのふふまるときにかぜふかずかも |
3595 | 安之比奇能 夜麻可都良加氣 麻之波尓母 衣我多奇可氣乎 於吉夜可良佐武 | あしひきのやまかづらかげましばにもえがたきかげをおきやからさむ |
3596 | 乎佐刀奈流 波奈多知波奈乎 比伎余治弖 乎良無登須礼杼 宇良和可美許曽 | をさとなるはなたちばなをひきよぢてをらむとすれどうらわかみこそ |
3597 | 夜自呂乃 須可敝尓多弖流 可保我波奈 莫佐吉伊デ曽祢 許米弖思努波武 | みやじろのすかへにたてるかほがはななさきいでそねこめてしのはむ |
3598 | 奈波之呂乃 古奈宜我波奈乎 伎奴尓須里 奈流留麻尓末仁 安是可加奈思家 | なはしろのこなぎがはなをきぬにすりなるるまにまにあぜかかなしけ |
巻十五 | ||
歌番号 | ||
(當所誦詠古歌) | ||
3628 | 多麻藻可流 乎等女乎須疑弖 奈都久佐能 野嶋我左吉尓 伊保里須和礼波 | たまもかるをとめをすぎてなつくさののしまがさきにいほりすわれは |
柿本朝臣人麻呂歌曰 敏馬乎須疑弖 又曰 布袮知可豆伎奴 | ||
七夕歌一首 | ||
3633 | 於保夫祢尓 麻可治之自奴伎 宇奈波良乎 許藝弖天和多流 月人乎登□ [□示+古] | おほぶねにまかぢしじぬきうなはらをこぎでてわたるつきひとをとこ |
右柿本朝臣人麻呂歌 | ||
風速浦舶泊之夜作歌二首 | ||
3637 | 和我由恵仁妹奈気久良之風速能宇良能於伎敝尓奇里多奈妣家利 | わがゆゑにいもなげくらしかざはやのうらのおきへにきりたなびけり |
3638 | 於伎都加是伊多久布伎勢婆和伎毛故我奈気伎能奇里尓安可麻之母能乎 | おきつかぜいたくふきせばわぎもこがなげきのきりにあかましものを |
(七夕仰観天漢各陳所思作歌三首) | ||
3679 | 等之尓安里弖 比等欲伊母尓安布 比故保思母 和礼尓麻佐里弖 於毛布良米也母 | としにありてひとよいもにあふひこほしもわれにまさりておもふらめやも |
(竹敷浦舶泊之時各陳心緒作歌十八首) | ||
3727 | 多可思吉能 多麻毛奈<婢>可之 己藝デ奈牟 君我美布祢乎 伊都等可麻多牟 | たかしきのたまもなびかしこぎでなむきみがみふねをいつとかまたむ |
右二首對馬娘子名玉槻 | ||
(竹敷浦舶泊之時各陳心緒作歌十八首) | ||
3732 | 之保非奈婆 麻多母和礼許牟 伊射遊賀武 於伎都志保佐為 多可久多知伎奴 | しほひなばまたもわれこむいざゆかむおきつしほさゐたかくたちきぬ |
3734 | 奴婆多麻能 伊毛我保須倍久 安良奈久尓 和我許呂母弖乎 奴礼弖伊可尓勢牟 | ぬばたまのいもがほすべくあらなくにわがころもでをぬれていかにせむ |
中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌 | ||
3745 | 安之比奇能夜麻治古延等須流君乎許々呂尓毛知弖夜須家久母奈之 | あしひきのやまぢこえむとするきみをこころにもちてやすけくもなし |
3746 | 君我由久道乃奈我弖乎久里多々祢也伎保呂煩散牟安米能火毛我母 | きみがゆくみちのながてをくりたたねやきほろぼさむあめのひもがも |
3747 | 和我世故之気太之麻可良婆思漏多倍乃蘇低乎布良左祢見都追志努波牟 | わがせこしけだしまからばしろたへのそでをふらさねみつつしのはむ |
3748 | 己能許呂波古非都追母安良牟多麻久之気安気弖乎知欲利須弁奈可流倍思 | このころはこひつつもあらむたまくしげあけてをちよりすべなかるべし |
右四首、娘子臨別作歌 | ||
3749 | 知里比治能可受尓母安良奴和礼由恵尓於毛比和夫良牟伊母我可奈思佐 | ちりひぢのかずにもあらぬわれゆゑにおもひわぶらむいもがかなしさ |
3750 | 安乎尓与之奈良能於保知波由吉余家杼許能山道波由伎安之可里家利 | あをによしならのおほちはゆきよけどこのやまみちはゆきあしかりけり |
3751 | 宇流波之等安我毛布伊毛乎於毛比都追由気婆可母等奈由伎安思可流良武 | うるはしとあがもふいもをおもひつつゆけばかもとなゆきあしかるらむ |
3752 | 加思故美等能良受安里思乎美故之治能多武気尓多知弖伊毛我名能里都 | かしこみとのらずありしをみこしぢのたむけにたちていもがなのりつ |
右四首、中臣朝臣宅守上道作歌 | ||
中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌 | ||
3760 | 於毛比都追 奴礼婆可毛等奈 奴婆多麻能 比等欲毛意知受 伊米尓之見由流 | おもひつつぬればかもとなぬばたまのひとよもおちずいめにしみゆる |
3762 | 安米都知能 可未奈伎毛能尓 安良婆許曽 安我毛布伊毛尓 安波受思仁世米 | あめつちのかみなきものにあらばこそあがもふいもにあはずしにせめ |
右十四首、中臣朝臣宅守 | ||
中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌 | ||
3769 | 和我屋度能 麻都能葉見都々 安礼麻多無 波夜可反里麻世 古非之奈奴刀尓 | わがやどのまつのはみつつあれまたむはやかへりませこひしなぬとに |
3770 | 比等久尓波 須美安之等曽伊布 須牟也氣久 波也可反里万世 古非之奈奴刀尓 | ひとくにはすみあしとぞいふすむやけくはやかへりませこひしなぬとに |
(右九首娘子) | ||
3801 | 和我夜度乃 波奈多知婆奈波 伊多都良尓 知利可須具良牟 見流比等奈思尓 | わがやどのはなたちばなはいたづらにちりかすぐらむみるひとなしに |
(右七首中臣朝臣宅守寄花鳥陳思作歌) | ||
巻十六 | ![]() |
|
歌番号 | ||
有由縁并雑歌 | ||
昔物有娘子 字曰櫻兒也 于時有二壮子 共誂此娘而捐生挌<競>貪死相敵 於是娘子戯欷曰 従古<来>今未聞未見一女之見徃適二門矣 方今壮子之意有難和平 不如妾死相害永息 尓乃尋入林中懸樹經死 其兩壮子不敢哀慟血泣漣襟 各陳心緒作歌二首 | 昔娘子あり、字を桜児といふ。ここに二人の壮士あり、共にこの娘を誂ひて、生を捐てて挌競ひ、死を貪りて相敵る。ここに娘子歔欷きて曰く、「古より今までに、未だ聞かず未だ見ず、一の女の身の二つの門に往適くといふことを。方今壮士の意、和平し難きことあり。如かじ、妾が死にて相害すること永く息まむ似は」といふ。すなはち林の中に尋ね入り、樹に懸りて経き死ぬ。その両の壮士、哀慟に敢へず、血の泣襟に漣れぬ。各々心緒を陳べて作る歌二首 | |
3808 | 春去者挿頭尓将為跡我念之桜花者散去香聞 其一 | はるさらばかざしにせむとあがおもひしさくらのはなはちりゆけるかも |
3809 | 妹之名尓繋有桜花開者常哉将恋弥年之羽尓 其二 | いもがなにかけたるさくらはなさかばつねにやこひむいやとしのはに |
或曰 <昔>有三男同娉一女也 娘子嘆息曰 一女之身易滅如露 三雄之志難平如石 遂乃彷徨池上沈没水底 於時其壮士等不勝哀頽之至 各陳所心作歌三首 [娘子字曰<イ>兒也] | 或の曰く、昔三の男あり、同じく一の女を娉ふ。娘子嘆息ひて曰く、「一の女の身の滅易きこと露の如く、三の雄の志の、平し難きこと石の如し」といふ。遂に乃ち池の上に彷徨み、水底に沈み没りぬ。ここにその壮士等、哀頽の至りに勝へず、各所心を陳べて作る歌三首 | |
3810 | 無耳之池羊蹄恨之吾妹児之来乍潜者水波将涸<一> | みみなしのいけしうらめしわぎもこがきつつかづかばみずはかれなむ |
3811 | 足曳之山縵之児今日往跡吾尓告世婆還来麻之乎 | あしひきのやまかづらのこけふゆくとわれにつげせばかへりこましを |
3812 | 足曳之玉縵之児如今日何隈乎見管来尓監 | あしひきのたまかづらのこけふのごといづれのくまをみつつきにけむ |
昔有老翁 号曰竹取翁也 此翁季春之月登丘遠望 忽値煮羮之九箇女子也 百嬌無儔花容無止 于時娘子等呼老翁嗤曰 叔父来乎 吹此燭火也 於是翁曰唯<々> 漸T徐行著接座上 良久娘子等皆共含咲相推譲之曰 阿誰呼此翁哉尓乃竹取翁謝之曰 非慮之外偶逢神仙 迷惑之心無敢所禁 近狎之罪希贖以歌 即作歌一首[并短歌] | 昔老翁がいて、通称を竹取の翁といった。この老翁が春も季の三月、丘に登ってはるばると見晴らした。するとたまたま羹を煮ている九人の乙女に出逢った。とりどりのなまめかしさは並ぶものがなく、花のように美しい顔はもう無類である。さて乙女たちは老翁を呼び、からかい半分で言うには、「おじさんこっちへいらっしゃい、この火を吹いておこしてくださいな」と言う。そこで老翁は、はいはい、と言い、のこのこ行って、その席に着いた。しばらく経って、乙女たちはみんな一緒に微笑しながら、つつき合いなじって口々に言うには、「誰なの、このおじさんを呼んだのは」と言った。そこで竹取の翁が恐縮して言うことには、「思いも寄らず、全く偶然に仙女さまがたにお目にかかりました。とまどっている私の心は、どうすることもできません。厚かましく近づいた罪は、出来ましたら歌ででも償わさせていただきましょう」と言った。そこで作った歌一首と短歌 | |
3813 | 緑子之 若子蚊見庭 垂乳為 母所懐 ウ襁 平<生>蚊見庭 結經方衣 水津裏丹縫服 頚著之 童子蚊見庭 結幡 袂著衣 服我矣 丹因 子等何四千庭 三名之綿 蚊黒為髪尾 信櫛持 於是蚊寸垂 取束 擧而裳纒見 解乱 童兒丹成見 羅丹津蚊經 色丹名著来 紫之 大綾之衣 墨江之 遠里小野之 真榛持 丹穂之為衣丹 狛錦 紐丹縫著 刺部重部 波累服 打十八為 麻續兒等 蟻衣之 寶之子等蚊 打栲者 經而織布 日曝之 朝手作尾 信巾裳成者之寸丹取為支屋所經 稲寸丁女蚊 妻問迹 我丹所来為 彼方之 二綾裏沓 飛鳥 飛鳥壮蚊 霖禁 縫為黒沓 刺佩而 庭立住 退莫立 禁尾迹女蚊 髣髴聞而 我丹所来為 水縹 絹帶尾 引帶成 韓帶丹取為 海神之 殿盖丹 飛翔 為軽如来 腰細丹 取餝氷 真十鏡 取雙懸而 己蚊果 還氷見乍 春避而 野邊尾廻者 面白見 我矣思經蚊 狭野津鳥 来鳴翔經 秋僻而 山邊尾徃者 名津蚊為迹 我矣思經蚊 天雲裳 行田菜引 還立 路尾所来者 打氷<刺> 宮尾見名 刺竹之 舎人壮裳 忍經等氷 還等氷見乍 誰子其迹哉 所思而在 如是 所為故為 古部 狭々寸為我哉 端寸八為 今日八方子等丹 五十狭邇迹哉 所思而在 如是 所為故為 古部之 賢人藻 後之世之 堅監将為迹 老人矣 送為車 持還来 <持還来> | みどり子の 若子髪には たらちし 母に抱かえ ひむつきの 稚児が髪には 木綿肩衣 純裏に縫ひ着 頚つきの 童髪には 結ひはたの 袖つけ衣 着し我れを 丹よれる 子らがよちには 蜷の腸 か黒し髪を ま櫛持ち ここにかき垂れ 取り束ね 上げても巻きみ 解き乱り 童になしみ さ丹つかふ 色になつける 紫の 大綾の衣 住吉の 遠里小野の ま榛持ち にほほし衣に 高麗錦 紐に縫ひつけ 刺部重部 なみ重ね着て 打麻やし 麻続の子ら あり衣の 財の子らが 打ちし栲 延へて織る布 日さらしの 麻手作りを 信巾裳成者之寸丹取為支屋所経 稲置娘子が 妻どふと 我れにおこせし 彼方の 二綾下沓 飛ぶ鳥 明日香壮士が 長雨禁へ 縫ひし黒沓 さし履きて 庭にたたずみ 退けな立ち 禁娘子が ほの聞きて 我れにおこせし 水縹の 絹の帯を 引き帯なす 韓帯に取らし わたつみの 殿の甍に 飛び翔ける すがるのごとき 腰細に 取り装ほひ まそ鏡 取り並め懸けて おのがなり かへらひ見つつ 春さりて 野辺を廻れば おもしろみ 我れを思へか さ野つ鳥 来鳴き翔らふ 秋さりて 山辺を行けば なつかしと 我れを思へか 天雲も 行きたなびく かへり立ち 道を来れば うちひさす 宮女 さす竹の 舎人壮士も 忍ぶらひ かへらひ見つつ 誰が子ぞとや 思はえてある かくのごと 所為故為 いにしへ ささきし我れや はしきやし 今日やも子らに いさとや 思はえてある かくのごと 所為故為 いにしへの 賢しき人も 後の世の 鑑にせむと 老人を 送りし車 持ち帰りけり 持ち帰りけり |
反歌二首 | ||
3814 | 死者木苑相不見在目生而在者白髪子等丹不生在目八方 | しなばこそあひみずあらめいきてあらばしろかみこらにおひずあらめやも |
3815 | 白髪為子等母生名者如是将若異子等丹所詈金目八 | しろかみしこらにおひなばかくのごとわかけむこらにのらえかねめや |
娘子等和歌九首 | ||
3816 | 端寸八為 老夫之歌丹 大欲寸 九兒等哉 蚊間毛而将居 [一] | はしきやしおきなのうたにおほほしきここののこらやかまけてをらむ |
3817 | 辱尾忍 辱尾黙 無事 物不言先丹 我者将依 [二] | はぢをしのびはぢをもだしてこともなくものいはぬさきにわれはよりなむ |
3818 | 否藻諾藻 随欲 可赦 皃所見哉 我藻将依 [三] | いなもをもほしきまにまにゆるすべきかほみゆるかもわれもよりなむ |
3819 | 死藻生藻 同心迹 結而為 友八違 我藻将依 [四] | しにもいきもおなじこころとむすびてしともやたがはむわれもよりなむ |
3820 | 何為迹 違将居 否藻諾藻 友之波々 我裳将依 [五] | なにすとたがひはをらむいなもをもとものなみなみわれもよりなむ |
3821 | 豈藻不在 自身之柄 人子之 事藻不盡 我藻将依 [六] | あにもあらじおのがみのからひとのこのこともつくさじわれもよりなむ |
3822 | 者田為々寸 穂庭莫出 思而有 情者所知 我藻将依 [七] | はだすすきほにはないでそおもひたるこころはしらゆわれもよりなむ |
3823 | 墨之江之 岸野之榛丹 々穂所經迹 丹穂葉寐我八 丹穂氷而将居 [八] | すみのえのきしののはりににほふれどにほはぬわれやにほひてをらむ |
3824 | 春之野乃 下草靡 我藻依 丹穂氷因将 友之随意 [九] | はるのののしたくさなびきわれもよりにほひよりなむとものまにまに |
雑歌/昔者有壮士與美女也[姓名未詳] 不告二親竊為交接 於時娘子之意欲親令知 因作歌詠送 | ||
3825 | 隠耳 戀者辛苦 山葉従 出来月之 顕者如何 | こもりのみこふればくるしやまのはゆいでくるつきのあらはさばいかに |
右或云 男有答歌者 未得探求也 | ||
贈歌一首 | ||
3836 | 真珠者 緒絶為尓伎登 聞之故尓 其緒復貫 吾玉尓将為 | しらたまはをだえしにきとききしゆゑにそのをまたぬきわがたまにせむ |
答歌一首 | ||
3837 | 白玉之 緒絶者信 雖然 其緒又貫 人持去家有 | しらたまのをだえはまことしかれどもそのをまたぬきひともちいにけり |
古歌曰 | ||
3844 | 橘 寺之長屋尓 吾率宿之 童女波奈理波 髪上都良武可 | たちばなのてらのながやにわがゐねしうなゐはなりはかみあげつらむか |
右歌椎野連長年脉曰 夫寺家之屋者不有俗人寝處 亦稱若冠女曰放髪<丱>矣 然則<腹>句已云放髪<丱>者 尾句不可重云著冠之辞哉 | 右の歌は、椎野連長年、説きて曰はく、「それ、寺家の屋は、俗人の寝る処にあらず。また、若冠の女を偁ひて、放髪丱といふ。しからばすなはち、腰句にすでに放髪丱と云へれば、尾句に重ねて著冠の辞を云ふべくあらじか」といふ。 | |
决曰 | ||
3845 | 橘之 光有長屋尓 吾率宿之 宇奈為放尓 髪擧都良武香 | たちばなのてれるながやにわがゐねしうなゐはなりにかみあげつらむか |
忌部首詠数種物歌一首 名忘失也 | ||
3854 | 枳棘原苅除曾気倉将立屎遠麻礼櫛造刀自 | からたちのうばらかりそけくらたてむくそとほくまれくしつくるとじ |
戀夫君歌一首 | ||
3879 | 飯喫騰味母不在雖行徃安久毛不有赤根佐須君之情志忘可祢津藻 | いひはめどうまくもあらずゆきゆけどやすくもあらずあかねさすきみがこころしわすれかねつも |
右歌一首傳云 佐為王有近習婢也 于時宿直不遑夫君難遇 感情馳結係戀實深 於是當宿之夜夢裏相見 覺寤<探>抱曽無觸手 尓乃哽咽歔欷高聲吟詠此歌 因王聞之哀慟永免侍宿也 | 右の歌一首、伝へて云はく、佐為王に近習する婢あり。ここに宿直遑あらず、夫君は遇ひ難し。感情馳結し、係恋実に深し。ここに当宿の夜、夢の裏に相見、覚き悟めて探り抱くに、かつて手に触れるることなし。すなはち哽咽ひ歔欷きて、高声にこの歌を吟詠す。因りて王これを聞き哀慟し、永く侍宿を免す、といふ。 | |
(筑前國志賀白水郎歌十首)同群? | ||
3892 | 紫乃 粉滷乃海尓 潜鳥 珠潜出者 吾玉尓将為 | むらさきのこがたのうみにかづくとりたまかづきでばわがたまにせむ |
豊後國白水郎歌一首 雑歌 | ||
3899 | 紅尓 染而之衣 雨零而 尓保比波雖為 移波米也毛 | くれなゐにそめてしころもあめふりてにほひはすともうつろはめやも |
巻十七 | ||
歌番号 | ||
天平二年庚午冬十一月大宰帥大伴卿被任大納言 [兼帥如舊]上京之時ソ従等別取海路入京 於是悲傷羇旅各陳所心作歌十首 | ||
3921 | 大海乃 於久可母之良受 由久和礼乎 何時伎麻佐武等 問之兒良波母 | おほうみのおくかもしらずゆくわれをいつきまさむととひしこらはも |
(右九首作者不審姓名) | ||
追和大宰之時梅花新歌六首 | ||
3923 | 民布由都藝芳流波吉多礼登烏梅能芳奈君尓之安良祢婆遠久人毛奈之 | みふゆつぎはるはきたれどうめのはなきみにしあらねばをくひともなし |
3924 | 烏梅乃花美夜万等之美尓安里登母也如此乃未君波見礼登安可尓勢牟 | うめのはなみやまとしみにありともやかくのみきみはみれどあかにせむ |
3925 | 春雨尓毛延之楊奈疑可烏梅乃花登母尓於久礼奴常乃物能香聞 | はるさめにもえしやなぎかうめのはなともにおくれぬつねのものかも |
3926 | 宇梅能花伊都波乎良自等伊登波祢登佐吉乃盛波乎思吉物奈利 | うめのはないつはをらじといとはねどさきのさかりはをしきものなり |
3927 | 遊内乃多努之吉庭尓梅柳乎理加謝思底婆意毛比奈美可毛 | あそぶうちのたのしきにはにうめやなぎをりかざしてばおもひなみかも |
3928 | 御苑布能百木乃宇梅乃落花之安米尓登妣安我里雪等敷里家牟 | みそのふのももきのうめのちるはなしあめにとびあがりゆきとふりけむ |
右十二年十二月九日、大伴宿禰書持作 | ||
山部宿祢明人詠春鴬歌一首 | ||
3937 | 安之比奇能山谷古延テ野豆加佐尓今者鳴良武宇具比須乃許恵 | あしひきのやまたにこえてのづかさにいまはなくらむうぐひすのこゑ |
更贈越中國歌二首 | ||
3951 | 多妣尓伊仁思吉美志毛都藝テ伊米尓美由安我加多孤悲乃思氣家礼婆可聞 | たびにいにしきみしもつぎていめにみゆあがかたこひのしげければかも |
平群氏女郎贈越中守大伴宿祢家持歌十二首 | ||
3953 | 吉美尓餘里 吾名波須泥尓 多都多山 絶多流孤悲乃 之氣吉許呂可母 | きみによりわがなはすでにたつたやまたえたるこひのしげきころかも |
3955 | 阿里佐利底 能知毛相牟等 於母倍許曽 都由能伊乃知母 都藝都追和多礼 | ありさりてのちもあはむとおもへこそつゆのいのちもつぎつつわたれ |
3956 | 奈加奈可尓 之奈婆夜須家牟 伎美我目乎 美受比佐奈良婆 須敝奈可流倍思 | なかなかにしなばやすけむきみがめをみずひさならばすべなかるべし |
3957 | 許母利奴能之多由孤悲安麻里志良奈美能伊知之路久伊泥奴比登乃師流倍久 | こもりぬのしたゆこひあまりしらなみのいちしろくいでぬひとのしるべく |
3958 | 久佐麻久良 多妣尓之婆々々 可久能未也 伎美乎夜利都追 安我孤悲乎良牟 | くさまくらたびにしばしばかくのみやきみをやりつつあがこひをらむ |
3959 | 草枕 多妣伊尓之伎美我 可敝里許牟 月日乎之良牟 須邊能思良難久 | くさまくらたびいにしきみがかへりこむつきひをしらむすべのしらなく |
3961 | 佐刀知加久 伎美我奈里那婆 古非米也等 母登奈於毛比此 安連曽久夜思伎 | さとちかくきみがなりなばこひめやともとなおもひしあれぞくやしき |
3962 | 餘呂豆代尓 許己呂波刀氣テ 和我世古我 都美之<手>見都追 志乃備加祢都母 | よろづよにこころはとけてわがせこがつみしてみつつしのびかねつも |
3963 | 鴬能 奈久々良多尓々 宇知波米テ 夜氣波之奴等母 伎美乎之麻多武 | うぐひすのなくくらたににうちはめてやけはしぬともきみをしまたむ |
3964 | 麻都能波奈 花可受尓之毛 和我勢故我 於母敝良奈久尓 母登奈佐吉都追 | まつのはなはなかずにしもわがせこがおもへらなくにもとなさきつつ |
右件十二首歌者時々寄便使来贈非在<一>度所送也 | ||
(昨日述短懐今朝汗耳目 更承賜書且奉不次 死罪々々 不遺下賎頻恵 徳音 英<霊>星氣逸調過人 智水仁山既ヒ琳瑯之光彩 潘江陸海自坐詩書之廊廟 騁思非常託情有理 七歩成章數篇満紙 巧遣愁人之重患 能除戀者之積思 山柿歌泉比此如蔑 彫龍筆海粲然得看矣 方知僕之有幸也 敬和歌其詞云) | ||
3998 | 和賀勢故邇 古非須敝奈賀利 安之可伎能 保可尓奈氣加布 安礼之可奈思母 | わがせこにこひすべながりあしかきのほかになげかふあれしかなしも |
三月五日大伴宿祢池主 | ||
(忽見入京述懐之作生別悲<兮>断腸万廻怨緒難禁聊奉所心一首并二絶) | ||
4034 | 宇良故非之 和賀勢能伎美波 奈泥之故我 波奈尓毛我母奈 安佐奈々々見牟 | うらごひしわがせのきみはなでしこがはなにもがもなあさなさなみむ |
右大伴宿祢池主報贈和歌 [五月二日] | ||
(思放逸鷹夢見感悦作歌一首[并短歌]) | ||
4036 | 矢形尾能 多加乎手尓須恵 美之麻野尓 可良奴日麻祢久 都奇曽倍尓家流 | やかたをのたかをてにすゑみしまのにからぬひまねくつきぞへにける |
(右射水郡古江村取獲蒼鷹 形容美麗鷙雉秀群也 於時養吏山田史君麻呂調試失節野猟乖候 摶風之翅高翔匿雲 腐鼠之餌呼留靡驗 於是張設羅網窺乎非常奉幣神祇恃乎不虞也 粤以夢裏有娘子喩曰 使君勿作苦念空費精神 放逸彼鷹獲得未幾矣哉 須叟覺寤有悦於懐 因作却恨之歌式旌感信 守大伴宿祢家持 [九月廾六日作也]) | ||
新川郡渡延槻河時作歌一首 | ||
4048 | 多知夜麻乃 由吉之久良之毛 波比都奇能 可波能和多理瀬 安夫美都加須毛 | たちやまのゆきしくらしもはひつきのかはのわたりせあぶみつかすも |
(右件歌詞者 依春出擧巡行諸郡 當時當所属目作之 大伴宿祢家持) | ||
巻十八 | ||
歌番号 | ||
(天平廿年春三月廾三日左大臣橘家之使者造酒司令史田邊福麻呂饗于守大伴宿祢家持舘爰作新歌并便誦古詠各述心緒) | ||
4058 | 奈呉能宇美尓 之保能波夜非波 安佐里之尓 伊泥牟等多豆波 伊麻曽奈久奈流 | なごのうみにしほのはやひばあさりしにいでむとたづはいまぞなくなる |
(右四首田邊史福麻呂) | ||
于時期之明日将遊覧布勢水海仍述懐各作歌) | ||
4065 | 宇梅能波奈 佐伎知流曽能尓 和礼由可牟 伎美我都可比乎 可多麻知我底良 | うめのはなさきちるそのにわれゆかむきみがつかひをかたまちがてら |
(右五首田邊史福麻呂 / 前件十首歌者廿四日宴作之 ) | ||
至水海遊覧之時各述懐作歌 | ||
4071 | 多流比賣野 宇良乎許藝都追 介敷乃日波 多努之久安曽敝 移比都支尓勢牟 | たるひめのうらをこぎつつけふのひはたのしくあそべいひつぎにせむ |
右一首遊行女婦土師 ( / 前件十五首歌者廿五日作之) | ||
4072 | 多流比女能 宇良乎許具不祢 可治末尓母 奈良野和藝弊乎 和須礼テ於毛倍也 | たるひめのうらをこぐふねかぢまにもならのわぎへをわすれておもへや |
右一首大伴家持 ( / 前件十五首歌者廿五日作之) | ||
四月一日掾久米朝臣廣縄之舘宴歌四首 | ||
4090 | 宇能花能佐久都奇多知奴保等登藝須伎奈吉等与米余敷布美多里登母 | うのはなのさくつきたちぬほととぎすきなきとよめよふふみたりとも |
右一首守大伴宿祢家持作之 | ||
4091 | 敷多我美能夜麻尓許母礼流保等登藝須伊麻母奈加奴香伎美尓伎可勢牟 | ふたがみのやまにこもれるほととぎすいまもなかぬかきみにきかせむ |
右一首遊行女婦土師作之 | ||
4092 | 乎里安加之母許余比波能麻牟保等登藝須安氣牟安之多波奈伎和多良牟曽 | をりあかしもこよひはのまむほととぎすあけむあしたはなきわたらむぞ |
右一首守大伴宿祢家持作之 | ||
4093 | 安須欲里波都藝弖伎許要牟保登等藝須比登欲能可良尓古非和多流加母 | あすよりはつぎてきこえむほととぎすひとよのからにこひわたるかも |
右一首羽咋郡擬主帳能登臣乙美作 | ||
(越中國守大伴家持報贈歌四首)一 答属目發思兼詠云遷任舊宅西北隅櫻樹 | ||
4101 | 和我勢故我 布流伎可吉都能 佐久良婆奈 伊麻太敷布賣利 比等目見尓許祢 | わがせこがふるきかきつのさくらばないまだふふめりひとめみにこね |
(三月十六日) | ||
(為贈京家願真珠歌一首[并短歌]) | ||
4129 | 思良多麻能 伊保都追度比乎 手尓牟須妣 於許世牟安麻波 牟賀思久母安流香 [一云 我家牟伎波母] |
しらたまのいほつつどひをてにむすびおこせむあまはむがしくもあるか |
右五月十四日大伴宿祢家持依興作 | ||
先妻不待夫君之喚使自来時作歌一首 | ||
4134 | 左夫流兒我 伊都伎之等乃尓 須受可氣奴 波由麻久太礼利 佐刀毛等騰呂尓 | さぶるこがいつきしとのにすずかけぬはゆまくだれりさともとどろに |
同月十七日大伴宿祢家持作之 | ||
庭中花作歌(一首)[并短歌]反歌(二首) | ||
4139 | 佐由利花 由利母相等 之多波布流 許己呂之奈久波 今日母倍米夜母 | さゆりばなゆりもあはむとしたはふるこころしなくはけふもへめやも |
同閏五月廿六日大伴宿祢家持作 | ||
((七夕歌一首[并短歌])反歌二首) | ||
4151 | 夜須能河波 許牟可比太知弖 等之乃古非 氣奈我伎古良河 都麻度比能欲曽 | やすのかはこむかひたちてとしのこひけながきこらがつまどひのよぞ |
右七月七日仰見天漢大伴宿祢家持作 | ||
天平勝寶二年正月二日於國廳給饗諸郡司等宴歌一首 | ||
4160 | 安之比奇能 夜麻能許奴礼能 保与等理天 可射之都良久波 知等世保久等曽 | あしひきのやまのこぬれのほよとりてかざしつらくはちとせほくとぞ |
右一首守大伴宿祢家持作 | ||
巻十九 | ||
歌番号 | ||
天平勝宝二年三月一日之暮、眺矚春苑桃李花作二首 | ||
4163 | 春苑紅尓保布桃花下照道尓出立憾嬬 | はるのそのくれなゐにほふもものはなしたでるみちにいでたつをとめ |
4164 | 吾園之李花可庭尓落波太礼能未遺在可母 | わがそののすもものはなかにはにちるはだれのいまだのこりたるかも |
豫作七夕歌一首 | ||
4187 | 妹之袖 我礼枕可牟 河湍尓 霧多知和多礼 左欲布氣奴刀尓 | いもがそでわれまくらかむかはのせにきりたちわたれさよふけぬとに |
(詠霍公鳥并時花歌一首[并短歌](反歌二首)) | ||
4192 | 毎年尓 来喧毛能由恵 霍公鳥 聞婆之努波久 不相日乎於保美 [毎年謂之等之乃波] | としのはにきなくものゆゑほととぎすきけばしのはくあはぬひをおほみ |
右廿日雖未及時依興預作也 | ||
廿四日應立夏四月節也 因此廿三日之暮忽思霍公鳥暁喧聲作歌二首 | ||
4195 | 常人毛 起都追聞曽 霍公鳥 此暁尓 来喧始音 | つねひともおきつつきくぞほととぎすこのあかときにきなくはつこゑ |
4196 | 霍公鳥 来喧響者 草等良牟 花橘乎 屋戸尓波不殖而 | ほととぎすきなきとよめばくさとらむはなたちばなをやどにはうゑずて |
詠霍公鳥二首 | ||
4199 | 霍公鳥 今来喧曽无 菖蒲 可都良久麻泥尓 加流々日安良米也 [毛能波三箇辞闕之] | ほととぎすいまきなきそむあやめぐさかづらくまでにかるるひあらめや |
4200 | 我門従 喧過度 霍公鳥 伊夜奈都可之久 雖聞飽不足 [毛能波テ尓乎六箇辞闕之] | わがかどゆなきすぎわたるほととぎすいやなつかしくきけどあきたらず |
(天平勝宝2年4月5日)詠山振花歌一首[并短歌] | ||
4209 | 宇都世美波 戀乎繁美登 春麻氣テ 念繁波 引攀而 折毛不折毛 毎見 情奈疑牟等 繁山之 谿敝尓生流 山振乎 屋戸尓引殖而 朝露尓 仁保敝流花乎 毎見 念者不止 戀志繁母 | うつせみは こひをしげみと はるまけて おもひしげけば ひきよぢて をりもをらずも みるごとに こころなぎむと しげやまの たにへにおふる やまぶきを やどにひきうゑて あさつゆに にほへるはなを みるごとに おもひはやまず こひししげしも |
4210 | 山吹乎 屋戸尓殖弖波 見其等尓 念者不止 戀己曽益礼 | やまぶきをやどにうゑてはみるごとにおもひはやまずこひこそまされ |
霖雨晴日作歌一首 | ||
4241 | 宇能花乎 令腐霖雨之 始水邇 縁木積成 将因兒毛我母 | うのはなをくたすながめのみづはなによるこつみなすよらむこもがも |
(右二首五月) | ||
(九月三日宴歌二首) | ||
4246 | 許能之具礼 伊多久奈布里曽 和藝毛故尓 美勢牟我多米尓 母美知等里テ牟 | このしぐれいたくなふりそわぎもこにみせむがためにもみちとりてむ |
大使藤原朝臣清河歌一首 | ||
4268 | 荒玉之年緒長吾念有児等尓可恋月近附奴 | あらたまのとしのをながくあがおもへるこらにこふべきつきちかづきぬ |
以七月十七日遷任少納言 仍作悲別之歌贈貽朝集使掾久米朝臣廣縄之館二首 /既満六載之期忽値遷替之運 於是別舊之悽心中欝結 拭な之袖何以能旱 因作悲歌二首式遺莫忘之志 其詞曰 | ||
4272 | 荒玉乃 年緒長久 相見テ之 彼心引 将忘也毛 | あらたまのとしのをながくあひみてしそのこころひきわすらえめやも |
4273 | 伊波世野尓 秋芽子之努藝 馬並 始鷹猟太尓 不為哉将別 | いはせのにあきはぎしのぎうまなめてはつとがりだにせずやわかれむ |
右八月四日贈之 | ||
便附大帳使取八月五日應入京師 因此以四日設國厨之饌於介内蔵伊美吉縄麻呂舘餞之 于時大伴宿祢家持作歌一首 | ||
4274 | 之奈謝可流 越尓五箇年 住々而 立別麻久 惜初夜可毛 | しなざかるこしにいつとせすみすみてたちわかれまくをしきよひかも |
廿七日林王宅餞之但馬按察使橘奈良麻呂朝臣宴歌三首 | ||
4303 | 能登河乃後者相牟之麻之久母別等伊倍婆可奈之久母在香 | のとがはののちにはあはむしましくもわかるといへばかなしくもあるか |
右一首治部卿船王 | ||
4304 | 立別君我伊麻左婆之奇嶋能人者和礼自久伊波比弖麻多牟 | たちわかれきみがいまさばしきしまのひとはわれじくいはひてまたむ |
右一首右京少進大伴宿祢黒麻呂 | ||
4305 | 白雪能布里之久山乎越由加牟君乎曽母等奈伊吉能乎尓念、伊伎能乎尓須流 | しらゆきのふりしくやまをこえゆかむきみをぞもとないきのをにおもふ、いきのをにす |
左大臣換尾云 伊伎能乎尓須流 然猶喩曰 如前誦之也 / 右一首少納言大伴宿祢家持 | ||
二月十九日於左大臣橘家宴見攀折柳條歌一首 | ||
4313 | 青柳乃 保都枝与治等理 可豆良久波 君之屋戸尓之 千年保久等曽 | あをやぎのほつえよぢとりかづらくはきみがやどにしちとせほくとぞ |
廿三日依興作歌二首 | ||
4314 | 春野尓霞多奈ビ伎宇良悲許能暮影尓鴬奈久母 | はるののにかすみたなびきうらがなしこのゆふかげにうぐひすなくも |
4315 | 和我屋度能伊佐左村竹布久風能於等能可蘇氣伎許能由布敝可母 | わがやどのいささむらたけふくかぜのおとのかそけきこのゆふへかも |
廿五日作歌一首 | ||
4316 | 宇良宇良尓照流春日尓比婆理安我里情悲毛比登里志於母倍婆 | うらうらにてれるはるひにひばりあがりこころがなしもひとりしおもへば |
巻二十 | ||
歌番号 | ||
(天平勝寶五年八月十二日二三大夫等各提壷酒 登高圓野聊述所心作歌三首) | ||
4321 | 乎美奈弊之 安伎波疑之努藝 左乎之可能 都由和氣奈加牟 多加麻刀能野曽 | をみなへしあきはぎしのぎさをしかのつゆわけなかむたかまとののそ |
右一首少納言大伴宿祢家持 | ||
(七夕歌八首) | ||
4331 | 秋等伊閇婆 許己呂曽伊多伎 宇多弖家尓 花仁奈蘇倍弖 見麻久保里香聞 | あきといへばこころぞいたきうたてけにはなになそへてみまくほりかも |
(右大伴宿祢家持獨仰天海作之) | ||
天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌 | ||
4346 | 和我都麻波 伊多久古非良之 乃牟美豆尓 加其佐倍美曳弖 余尓和須良礼受 | わがつまはいたくこひらしのむみづにかごさへみえてよにわすられず |
右一首主帳丁麁玉郡若倭部身麻呂 | ||
追痛防人悲別之心作歌一首[并短歌] | ||
4357 | 等里我奈久安豆麻乎等故能都麻和可礼可奈之久安里家牟等之能乎奈我美 | とりがなくあづまをとこのつまわかれかなしくありけむとしのをながみ |
防人歌/(天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌) | ||
4364 | 等知波々江 已波比弖麻多祢 豆久志奈流 美豆久白玉 等里弖久麻弖尓 | とちははえいはひてまたねつくしなるみづくしらたまとりてくまでに |
右一首川原虫麻呂 | ||
4376 | 美知乃倍乃宇万良能宇礼尓波保麻米乃可良麻流伎美乎波可礼加由加牟 | みちのへのうまらのうれにはほまめのからまるきみをはかれかゆかむ |
右一首、天羽郡上丁丈部鳥 | ||
4380 | 和我波々能蘇弖母知奈弖氐和我可良尓奈伎之許己呂乎和須良延奴可毛 | わがははのそでもちなでてわがからになきしこころをわすらえぬかも |
右一首、山辺郡上丁物部乎刀良 | ||
獨惜龍田山櫻花歌一首 | ||
4419 | 多都多夜麻 見都々古要許之 佐久良波奈 知利加須疑奈牟 和我可敝流刀尓 | たつたやまみつつこえこしさくらばなちりかすぎなむわがかへるとに |
(右三首二月十七日兵部少輔大伴家持作之) | ||
陳防人悲別之情歌一首[并短歌] | ||
4436 | 之麻可氣尓 和我布祢波弖テ 都氣也良牟 都可比乎奈美也 古非都々由加牟 | しまかげにわがふねはててつげやらむつかひをなみやこひつつゆかむ |
4444 | 久佐麻久良多妣乃麻流祢乃比毛多要婆安我弖等都気呂許礼乃波流母志 | くさまくらたびのまるねのひもたえばあがてとつけろこれのはるもし |
右一首、妻椋椅部弟女 | ||
4449 | 佐伎毛利尓由久波多我世登刀布比登乎美流我登毛之佐毛乃母比毛世受 | さきもりにゆくはたがせととふひとをみるがともしさものもひもせず |
右八首昔<年>防人歌矣 | ||
昔年相替防人歌一首 | ||
4460 | 夜未乃欲能 由久左伎之良受 由久和礼乎 伊都伎麻佐牟等 登比之古良波母 | やみのよのゆくさきしらずゆくわれをいつきまさむととひしこらはも |
(右件四首上総國大<掾>正六位上大原真人今城傳誦云尓 [年月未詳]) | ||
五月九日兵部少輔大伴宿祢家持之宅集宴歌四首 | ||
4466 | 和我勢故我夜度乃奈弖之故比奈良倍弖安米波布礼杼母伊呂毛可波良受 | わがせこがやどのなでしこひならべてあめはふれどもいろもかはらず |
右一首大原真人今城 | ||
4467 | 比佐可多能安米波布里之久奈弖之故我伊夜波都波奈尓故非之伎和我勢 | ひさかたのあめはふりしくなでしこがいやはつはなにこひしきわがせ |
右一首大伴宿祢家持 | ||
4468 | 和我世故我夜度奈流波疑乃波奈佐可牟安伎能由布敝波和礼乎之努波世 | わがせこがやどなるはぎのはなさかむあきのゆふへはわれをしのはせ |
右一首大原真人今城 | ||
即聞鴬哢作歌一首 | ||
4469 | 宇具比須乃許恵波須疑奴等於毛倍杼母之美尓之許己呂奈保古非尓家里奈 | うぐひすのこゑはすぎぬとおもへどもしみにしこころなほこひにけり |
右一首大伴宿祢家持 | ||
同月十一日左大臣橘卿宴右大辨丹比國人真人之宅歌三首 | ||
4470 | 和我夜度尓 佐家流奈弖之故 麻比波勢牟 由米波奈知流奈 伊也乎知尓左家 | わがやどにさけるなでしこまひはせむゆめはなちるないやをちにさけ |
右一首丹比國人真人壽左大臣歌 | ||
4471 | 麻比之都々 伎美我於保世流 奈弖之故我 波奈乃未等波無 伎美奈良奈久尓 | まひしつつきみがおほせるなでしこがはなのみとはむきみならなくに |
右一首左大臣和歌 | ||
4472 | 安治佐為能夜蔽佐久其等久夜都与尓乎伊麻世我勢故美都々思努波牟 | あぢさゐのやへさくごとくやつよにをいませわがせこみつつしのはむ |
右一首、左大臣寄味狭藍花詠也 | ||
(十二月十八日於大監物三形王之宅宴歌三首) | ||
4514 | 安良多末能 等之由伎我敝理 波流多々婆 末豆和我夜度尓 宇具比須波奈家 | あらたまのとしゆきがへりはるたたばまづわがやどにうぐひすはなけ |
右一首右中辨大伴宿祢家持 | ||
4518 | 水鳥乃 可毛能羽能伊呂乃 青馬乎 家布美流比等波 可藝利奈之等伊布 | みづとりのかものはのいろのあをうまをけふみるひとはかぎりなしといふ |
右一首為七日侍宴右中辨大伴宿祢家持預作此歌 但依仁王會事却以六日於内裏召諸王卿等賜酒肆宴給祿 因斯不奏也 | ||
属目山斎作歌三首 | ||
4535 | 乎之能須牟伎美我許乃之麻家布美礼婆安之婢乃波奈毛左伎尓家流可母 | をしのすむきみがこのしまけふみればあしびのはなもさきにけるかも |
右一首、大監物御方王 | ||
4536 | 伊気美豆尓可気左倍見要氐佐伎尓保布安之婢乃波奈乎蘇弖尓古伎礼奈 | いけみずにかげさへみえてさきにほふあしびのはなをそでにこきれな |
右一首、右中弁大伴宿祢家持 | ||
4537 | 伊蘇可気乃美由流伊気美豆氐流麻埿尓左家流安之婢乃知良麻久乎思母 | いそかげのみゆるいけみずてるまでにさけるあしびのちらまくをしも |
右一首、大蔵大輔甘南備伊香真人 | ||
七月五日於治部少輔大原今城真人宅餞因幡守大伴宿祢家持宴歌一首 | ||
4539 | 秋風乃 須恵布伎奈婢久 波疑能花 登毛尓加射左受 安比加和可礼牟 | あきかぜのすゑふきなびくはぎのはなともにかざさずあひかわかれむ |
右一首大伴宿祢家持作之 | ||
三年春正月一日於因幡國廳賜饗國郡司等之宴歌一首 | ||
4540 | 新 年乃始乃 波都波流能 家布敷流由伎能 伊夜之家餘其騰 | あらたしきとしのはじめのはつはるのけふふるゆきのいやしけよごと |
右一首守大伴宿祢家持作之 |