この両巻は、内容・形式共、相互に共通な点が多く、姉妹関係をなすと言ってもよさそうである。ただ分量が合計すると八百七十首にもなるため二つに分けたと見て誤りがなかろう。よって、両巻まとめて解説することにする。
このような機械的な分割は万葉集二十巻のうち、この二巻だけである。目録でそれぞれの最初に「古今相聞往来歌類之上」「古今相聞往来歌類之下」と書かれているのもそれゆえである。この「相聞往来」という熟合した四字は巻第四の730の題詞の下に既に見えた。即ち、大伴家持が、間違いなく結婚するだろうと誰もが思っていた従妹の坂上大嬢と、訳あってしばらく音信を絶っていたのだが、また歌を贈答し、元の鞘に納まったことを「離絶数年復会相聞往来」と書いている。また巻第十四において、本条の部立名としては「相聞」の二字で示してあるが、それに対する目録に「遠江国相聞往来歌」「駿河国相聞往来歌」・・・「未勘国相聞往来歌」などと記している。これだけのことで、巻第十一・十二を切り分け、かつこれらの目録を作ったのは家持、とは断定しないが、その可能性は高いだろう。
ただし、巻第四の「相聞往来」は実際に歌を贈答し唱和したことを意味するが、これらの目録におけるそれは部立名としての「相聞」の言い換えで、恋の歌の汎称であり、したがって対詠や通信ばかりをさすのでなく、片思いや忍ぶ恋、待つ恋などの独詠も含まれ、更に、もっと個人の創作歌であっても、歌い継がれ流伝して民謡と化したものをもさし、この前後の作者不明の巻々の中ではむしろそれが主流をなすと考えられる。
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巻第十一と巻第十二との共通点・相違点が明らかになるように表示すれば、次のようになる。(歌数、小学館・新編日本古典文学全集原文のまま)
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<巻第十一> |
<巻第十二> |
A |
旋頭歌 |
人麻呂歌集 |
12首 |
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古歌集 |
5首 |
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B |
正述心緒 |
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47首 |
正述心緒 |
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10首 |
寄物陳思 |
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93首 |
寄物陳思 |
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13首 |
問答 |
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9首 |
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正述心緒 |
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102首 |
正述心緒 |
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100首 |
寄物陳思 |
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189首 |
寄物陳思 |
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137首 |
問答 |
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20首 |
問答歌 |
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26首 |
譬喩 |
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13首 |
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C |
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羈旅発思 |
人麻呂歌集 |
4首 |
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出典不明 |
49首 |
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悲別歌 |
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31首 |
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問答歌 |
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10首 |
(備考)赤字は『人麻呂歌集』出であることを示す。
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先程、この両巻が相似ていると言ったが、正確にはB部が似ているだけで、巻第十一にはC部がなく、巻第十二はA部を欠く。そのA部「旋頭歌」は、巻第七にあった同歌体の大部分の歌が雑歌的内容であったのに対して、当然のことながら相聞的内容のものばかりである。B部は両巻とも量的に中心的な部分を占める。その小分類項目の名義については頭注でも簡略に記したが、ここで改めて述べよう。
「正述心緒」は、心のうちに思うことを直接的に述べる、の意で、消去法で言えば、純粋な意味で隠喩であるべき譬喩歌でもなく、何かにこと寄せてそれを媒介にした「寄物陳思」でもない表現法の歌、と説明するのが最も妥当な定義であろう。実際にはこの中にも多少「寄物」的な語を含む歌も幾つかあるが、その境目は必ずしも明瞭でなく、また厳正な区別を求めることも無意味である。いちいち所在は指摘しないが、『人麻呂歌集』にも、出典不明の歌の中にも、「袖」や「紐」などの語がそれぞれ十回前後も見えている。これらは仕分けの目安たり得なかったのであろうか。それはともかく、「心緒」(漢語)の語は、巻第十五の遣新羅使一行が筑前国志麻郡の韓停で詠んだ歌(3690)の題詞に「・・・旅情悽噎す。各心緒を陳べ、聊かに裁る歌」とあり、類語に「悲緒」「恋緒」「愁緒」「怨緒」が諸巻の題詞や目録などに見えるばかりでなく、東歌に「心の緒ろに乗りてかなしも」(3485)という訳語としても詠み込まれている。ここはその「心緒」を生のままに詠出したというのである。総じて「寄物陳思」よりも歌数が少ないのは、それなりの原因がありそうであるが、今はその事実の指摘だけに留めておく。
「寄物陳思」は『古今集』仮名序の言葉を借りるならば、「心に思ふ事を見るもの聞くものにつけて言ひ出せる」ものをさす。その託した物、媒材の並べ方におのずから順序が認められることは早くから知られ、それは両巻を通じ、また『人麻呂歌集』と出典不明部との別もない。その配列に関して、研究者の間に多少、解釈の違いはあるが、おおむね神祇・天象・気象・地象・動物・植物・器材・衣服・玉貝・雑の十部に分類され、次のように並んでいる。
巻第十一 |
人麻呂歌集 |
神地気天植×動器衣雑 |
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出典不明 |
衣器雑神天気地植玉動 |
巻第十二 |
人麻呂歌集 |
衣×雑神天気地植×× |
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出典不明 |
衣器雑×天地気植玉動(神) |
この×はそのグループに該当歌がないことを示すが、これを見れば、多少入れ替わりがあっても、総じてこれら四グループの「物」による配列法が相互に無関係でないことは明らかであろう。この類聚形式の順序は恐らく、もと『芸文類聚』など中国の類書にあったものから学んだものと思われる。
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